翌日、元気を取り戻したは組は、土井と山田と共に野盗を捕らえた森に戻ってきた。 持ってきた縄で放置されていた野盗たちを縛り上げ、山田と虎若としんべヱと金吾で、 町の奉行所へと引きずっていった。 その間、残った者達は後片付けをする。 兵太夫と三治郎と団蔵は森に仕掛けた罠を外しに回り、 残りの乱太郎、きり丸、庄左ヱ門、伊助、喜三太で、 最後に使った仕掛けなどを元通りにしていた。 「金吾としんべヱ、随分深く穴掘ってたんだねー」 「なかなか埋まらないな……」 半分ほど埋まった穴の傍で、喜三太ときり丸が座り込む。 「この丸太、どうする?」 「じゃあぼくの家に持ってくよ。炭にする」 野盗の一人を弾き飛ばした丸太を持って、伊助と庄左ヱ門が話し合う。 「あの毒草、授業では教えてないよな?」 「はい、伊作先輩に習いました」 毒草の後片付けを終えた乱太郎と土井が、川で手を洗って戻ってきた。 そのあたりで、仕掛けの回収を終えた兵太夫と三治郎と団蔵が戻ってきた。 三人とも、その背に大きめの籠を背負っている。 仕掛けを持って帰るつもりで、持ってきていたのだ。 「でもさ、その部分に木を使ったらちょっと上手く動かないんじゃない?」 「でもそっちだと強度部分に問題があると思うんだ」 「からくり談義は学園に帰ってからにしてくれよ……」 戻ってくる途中、延々と聞かされていた団蔵は、げんなりと言った。 全員戻ってきたのを確認して、土井は手を叩く。 「よーし、撤収するぞ。帰ったら補習だ!」 その言葉に、当然ちらほらと不満の声が上がる。 「えええ〜」 「昨日いっぱい説教受けたじゃないですかぁ」 とりあえず風呂と食事はさせてもらえたものの、は組はその後数時間に及ぶ説教を受けた。 団蔵あたりは、おかげで委員会に出ずに済んだので、悲喜半々だったが。 「何言ってる、ここ三日ほど、全く教科書進んでないんだぞ!……ああ、胃が痛む」 自分で言ってしまってから、土井は胃が痛んで手を当てる。 キリキリキリ、という音が他の者にも聞こえそうだった。 「みんな、補習はいつものことだろ。今更だよ」 「庄ちゃん、ほんと冷静ね」 伊助がやや遠い目で言う。 補習がいつものことになっているあたり、土井の苦労が窺えるというものだ。 みんなでぞろぞろと森を出て、学園に戻る。 途中で、野盗を引渡しに行っていた四人とも合流した。 「しんべヱは相変わらず力持ちでさ、一人を一人で引きずってたんだ。ちょっと痛そうだった」 金吾が喜三太に、その様子を身振り手振りを交えて話した。 「奉行所でさ、ぼくたちが捕まえたんですって言ったら、すごい驚かれたよ。 山田先生が言ってくれなかったら、信じてくれなかったかも」 虎若がやや複雑そうな表情で、その情景を団蔵に語る。 「お腹空いたぁ、帰ったらおやつ食べよう」 今にもよだれをたらしそうなしんべヱだったが、 乱太郎ときり丸に帰ったら補習だといわれて、悲鳴をあげていた。 和気藹々と歩くその様子を、土井と山田が後ろからのんびり眺める。 「全く、こっちの気も知らんで」 「でもまさか、自分達で野宿までできるようになってるなんて」 一年は組が帰ってこなかったことで、学園はちょっとした騒ぎになっていたのだ。 何しろ一年は組は森の深いところにいて、全く見つからなかったので。 その時のことを思い出し、山田は憤慨したが、土井はややしみじみとその後姿を眺めた。 学園で話を聞いたときは半信半疑だったが、 いざ森にいってその野営の後を見てみれば、思ったよりもしっかりとしていたのだ。 心配していたことにはそのことも含まれていたので、それを見た土井はとても驚いた。 防寒に葉を使ったり穴を掘ったり、火をつけたり食べられる食材を集めたり。 それらは、確かに土井が教えたものもあるが、大半は子供達が自分達で身につけたことだ。 実家の生業上でだったり、今までの積み重ねた経験などでだ。 その確かな成長を感じ、土井は思わず感慨にふける。 その様子を見て、山田も思わず温かい目で子供達を見やった。 は組の子達が笑い合っているのを見ていると、怒気や毒気がそがれていくから、不思議だ。 だが、そうしてばかりもいられない。 そのせいで教科書はとても(庄左ヱ門の言ったとおり今更ではあるが)滞っているのだ。 「今度の休みも帰れませんかね」 「家内に怒られる……」 たまりにたまった補習を思い、二人は同時にため息をついた。 帰れない、と連絡を送るたび、少々怖いものを送られている山田の憂鬱は深刻だ。 なかなか帰れないことで、近所付き合いが出来ていない土井も、なかなかに深刻だが。 「まあ、お仕置きを兼ねて、ちょっとした意趣返しに抜き打ちテストでもやりますかね。 ……森での行動について」 「ははは、今度は合計何点になるかな」 子供達が、森での行動についてある程度知識があるのは、今しがた知ったばかり。 甘いのか厳しいのかよく分からないそれに、山田は声をあげて笑った。 「なら、私もそうするとしますかな。おーい、お前ら! 実技の補習を兼ねて学園までマラソンだ!」 「ええ〜」 「今からもう補習ですか?」 「帰ったらどうせ補習あるのに……」 または組の面々が口を尖らせて文句を言う。 「何を言う、帰って一日中やっても終わらないくらい補習があるんだぞ。さあ、走れ!」 山田が手を叩いて急かせば、みんな慌てながらばらばらと走り出した。 「ただ走るのもつまんないから食券賭けないか?」 「その話、乗った!」 「ぼくも!」 「普通に走ったら乱太郎の勝ちじゃないの?」 「いや、体力の面からいけば、まだぼくたちにも勝ち目はあるよ」 「え、私強制参加?」 「食券……!」 「おーい、しんべヱが食券のキーワードに反応してるよ!」 「まずい、急げ!」 「これ、補習なんだけど」 「もう誰も聞いてないよ、庄ちゃん」 よく言えば、賑やかに。 悪く言えば、騒がしく。 一年は組が、駆けて行く。 その後を、土井と山田が軽く走りながら笑って追いかけた。