「はにゃあ!そこのナメちゃん!待って!」

「喜三太、どこ行くの!」

「あーもう!」

森でナメクジを見かけ、喜三太がそれを追いかける。

伊助と団蔵がそれを追いかけた。

数分小走りに走って、ようやく喜三太は捕まえたナメクジを嬉しそうに壺に入れた。

「お前のー、名前はー……うーん……ナメ宗!」

「はいはい、良かったね」

「これじゃあ、いつまでたってもみんなと合流できないよ」

喜三太を両脇から捕まえて、二人は軽く切らした息を整える。

ようやく息切れが収まってきた頃に、伊助は空を見上げた。

「団蔵、今、どの辺りにいるか分かる?」

「方角と現在地は何となく……でもどこにみんながいるかは分からないや」

「そりゃね」

馬借の息子として、あちこちを馬で走り回っている団蔵は、方向感覚がいい。

とりあえず北はあっち、自分達が森に入ったのはあっち、と両の手で示した。

「川があるのは、どっちか分かる?」

「川?何で」

団蔵が首をかしげると、伊助は呆れたように言った。

「山の中では水場が大事だって、土井先生が言ってたよ。

みんながそれを覚えてるなら……運よく覚えてるなら、

川に向かって進めばみんなと合流できるかもしれない」

訂正した言葉に、団蔵が苦笑いする。

「不安だな」

「でも、少なくとも庄ちゃんは覚えてるはず。で、どっちか分かる?」

「うーん……」

団蔵は先ほどの伊助と同じように、上を見上げつつ辺りを見回した。

それから目を閉じて何かを思い出すように呟く。

「西……滝……川……確か、西の山の方から、川が流れてたと思うけど……」

地図を思い出していたらしい。

それから団蔵は西の方角を指した。

「それじゃあ、そっちに行こう。喜三太!移動するよ!」

「うん」

新しいナメクジを迎えてご機嫌の喜三太は、にこにこと答えた。

川へ向かう途中、団蔵は辺りをきょろきょろと見回した。

「何してるの、団蔵?」

伊助の質問に、団蔵は振り返ることなく答える。

「食べられるものないか、探してる」

「え?」

「歩いてたらお腹すくだろ?まずは食料ありきの活動ってな」

その団蔵に、喜三太がキノコを差し出した。

「団蔵、これ、食べられるよ」

「え、喜三太、何でそんなこと知ってんの?」

喜三太からキノコを受け取り、団蔵はそのキノコをまじまじと見た。

団蔵には、それが食用なのか毒なのか分からない。

「前にね、与四郎先輩に聞いたんだ。でも、天然のは一度火にかけたほうがいいんだって」

「なるほど、殺菌のためか」

伊助が納得したように頷き、団蔵が歓声を上げる。

「へえ、やるじゃん喜三太!」

「えへへ。あ、あと、あれは生で食べられる草なんだって」

喜三太は嬉しそうに笑った後、進行方向にある草を指差した。

伊助がそれを摘み取る。

「じゃあ、なるべく食料集めていこう」

「よしきた」


「お腹空いたあぁ〜」

「しんべヱ、頑張れ、ほら」

「きっともうちょっとだから、な?」

お腹が空いたとのっそり歩くしんべヱを、両隣から庄左ヱ門と金吾が引っ張っていく。

と言っても、しんべヱの体重は十歳の子供二人が引きずれるような重さではないので、

手を引いている程度ではあるのだけれども。

「うう……」

「じゃあ、もう少し歩いたら、何か食料を探そう。どちらにしろ、探さないといけないと思ってたし」

「ごはん!?」

「っていえるほどのものじゃないだろうけどね。ほら、頑張って」

二人の励ましで、しんべヱは力を振り絞って、二人に続いて歩いた。

庄左ヱ門と金吾は、仲間を探すように首を回す。

しかし、仲間の影も形も見当たらなかった。

「大分遠くにはぐれちゃったのかもね」

「だとすると、合流するのは大変かなあ……」

ぼやく金吾の隣で、庄左ヱ門は地面に石を並べて置いた。

「何してるの、庄左ヱ門?」

「目印。誰か通ったら、気付いてくれるかもしれない」

「さすがあ」

それからも庄左ヱ門は定期的に石を並べて置いた。

そうしてしばらく歩いたのだが、やはり仲間も他の目印も何も見つからない。

仕方が無いので、少し開けたところで休憩することにした。

火を起こし、庄左ヱ門が記憶を頼りに木の実やキノコを火であぶった。

ちなみに火にかける前に、それらをしんべヱの前に並べて、毒等がないことを確認した。

しんべヱの食べ物に関する嗅覚は犬以上である。

庄左ヱ門があぶり、しんべヱが味付けを手伝う中、辺りを見回っていた金吾が戻ってきた。

「この辺には誰もいないや。みんなも、そのほかもって意味で」

「そっか」

「どうする、庄左ヱ門?」

二人と一緒に焚き火を囲んで、金吾が腰を下ろして尋ねる。

庄左ヱ門は決まっていたとばかりに頷いた。

「食べ終わったら、川を探そう。土井先生が、山の中では水場が大事だって言ってた。

みんなの中のはたして何人が覚えてるかは分からないけど、行ってみる価値はあるはずだ」

庄左ヱ門の言葉にしんべヱと金吾が曖昧に笑う。

どうやら覚えていなかったらしい。

庄左ヱ門はやっぱりね、と言ってから、今まであぶっていたキノコをしんべヱに差出す。

「わあい、ありがとう、庄左ヱ門!」

しんべヱが嬉しそうにかぶりつく。

金吾にもキノコを差し出し、庄左ヱ門も自分の分に口をつけた。

「先生達、心配してるかもなあ」

「もう合計で二時間くらいは森の中を歩いてるもんね」

しんべヱがキノコを一つ食べ終えて、庄左ヱ門に木の実を貰いながら言った。

金吾も頷く。

「毎回毎回、どうして些細なことでこんなことになるのかな」

「ぼくらの中に、とんでもなく運の悪い、事件を引き寄せる体質の持ち主でもいるんじゃないか」

庄左ヱ門が言った後に、とてつもなく微妙な顔をした。

遅れて、金吾、しんべヱも複雑そうな顔をする。

「不運って……うつるのかな」

「かもね」

「それじゃあ、ぼくは一番うつってるよぉ」

ちょっとだけ悲しい気分になりながら、三人は黙々と食事を続けた。