乱太郎と三治郎はある程度の食料を確保して、川に誰か来ないかと待っていたが、

仲間はおろか、追っていた野盗も、獣一匹さえこなかった。

「もう日が暮れちゃうね……」

「うん、先生心配しそう」

既に夕焼けより夜空に近い空を見上げて、二人はため息をついた。

思っていたよりも、は組は森中に散ってしまっていたらしい。

一度学園に帰ろうという案も出たが、

暗くなってからではその方が危ないということで、二人は森に留まることにした。

獣避けも兼ねて、二人は火を焚いた。

温まりながら、取ってきていた食料を適当にあぶる。

「三治郎は、いつも父ちゃんとこんな感じなの?」

「まあ、大体ね」

「すごいなあ。休みの間、ずっと修行なんて」

「子供の頃からしてるから、そう苦じゃないよ」

乱太郎に褒められて、三治郎は少し照れたように微笑んだ。

「乱太郎だって、両親は忍で、色々教えて貰ってるんじゃない?」

「うーん、忍って言ってもヒラ忍者だし、殆ど農業ばかりやってるからなあ。

まあ、たまあに忍の心得とか、教えてくれるけど」

「それだってすごいじゃない」

「そんなことないよ」

互いに褒めあって、なぜか気恥ずかしくなって、二人同時に笑い出した。

それからはっとしたように、二人はあわてて声を潜める。

「森の中では、獣を刺激しないこと」

「迂闊に声を出すと、敵に自分の居場所を知らしめることとなる」

山伏としての知識と、忍としての心得を、二人は同時に言って、

顔を見合わせて、今度は声を出さないように笑った。

ご飯を食べ終え、辺りがすっかり暗くなってからも、辺りに全く沙汰はなかった。

「とりあえず、休もうか?」

「そうだね、ぼくらも大分歩いたし」

二人は火を消して、そこで火を起こしたことがばれないようにきちんと片付けて

(食べ残しなどは土に埋めた)、少し森の中に入った。

柄紐があれば即席テントが出来たのだが、あいにく二人は刀は持ってきていなかったので、

大きめの葉を布団代わりにして、二人は体を寄せ合うように丸まった。

体温を下げないようにである。

その際、二人はそれぞれの父親に習った、獣避けの対策を辺りに施しておいた。

もし人がやってきても、何らかの反応はするので、すぐ分かる。

「明日は、みんなと会えるといいね」

「きっと会えるよ」

小声で声を交わし、二人はまた笑い合った。

「お休み、乱太郎」

「お休みなさい、三治郎」


「くぁ、すっかり日が暮れちまったな」

「食料探しだけで随分かかっちゃったよ」

とりあえず三人分の食料を抱えて、きり丸と虎若は兵太夫のところに戻ってきた。

兵太夫は暗がりの中、なにやら懸命に手を動かしている。

「何してんの、兵太夫」

「簡単なからくり作ってる」

見れば、兵太夫の周りに小物がいくつか出来ていた。

どうやら設置型の仕掛けらしい。

あまりのらしさに、きり丸が呆れた。

「こんなとこに来てまでお前はからくりかよ!」

「獣避けや、野盗対策だよ」

「まあ、兵太夫の言うことにも一理あるよ」

しかし、やはり暗くて手元が見えなくなってきたらしい。

目をこする兵太夫の横に、きり丸が火を焚いた。

「お、ありがと」

「虫やら何やらあぶんなきゃいけないし、獣避け、すんだろ」

火を囲んで並び、兵太夫はからくりの続きを、きり丸と虎若は適当に食料をあぶった。

「そういや、オレたち、おつかい名義で学園出てきたんだよな……」

「先生心配してるだろうなあ。でも、暗くなってから森で動く方が危ないし」

「そうそう。それに、このからくりがありゃ、大の大人だってそうそう近寄れないよ。

あの野盗がきても大丈夫だ」

雑談をするきり丸と虎若に、完成品を確認する兵太夫が答えた。

思わず二人は体を引く。

「おまっ一体どんなからくり作ってんだ!簡単なのじゃなかったのか!」

「みんながかかったらどうするんだよ!」

「簡単なのだって、効果的じゃないとは限らないだろ。

大丈夫だよ、殺傷力のあるものじゃない。かかったのがみんななら、ぼくが外しに行けばいいし」

つまりは、仲間でもかかる可能性が十分にあるからくりだということである。

きり丸は横目で兵太夫を睨みながら、少しこげのついたイナゴを渡した。

「ほら、夕飯」

それを見て、やや兵太夫が顔をしかめる。

「お前、またイナゴか」

「いいじゃん手軽で」

「ほら、こっちは草をあぶったもの」

慌てて虎若が自分が拾ってきたものを兵太夫に渡し、自分もイナゴを食べ始めた。

「夜は?休む?」

「そりゃ、明日の捜索のために体を休めといた方がいいだろうよ」

「だと思って、その辺でからくりの材料を集めてきた時、草をたくさんを拾っておいた。

あれなら布団代わりになるだろ」

兵太夫が、自分の後ろにある、こんもりとした草の山を指差した。

二人がおお、と声を上げる。

「からくり作ってただけじゃないんだな」

「ちょっと見直したぜ、兵太夫」

「……」

兵太夫は至極微妙な顔で、きり丸に渡されたイナゴにかぶりついた。

とりあえず腹を満たしたところで、兵太夫ときり丸は辺りにからくりを設置しに行った。

きり丸は松明を持って行った。

虎若は火の番をして、二人を待つ。

その間、誰かの声が聞こえないかと耳を澄ませていたが、やはり、誰の声も聞こえることはなかった。

しばらくして、二人が戻ってきた。

「完了。とりあえずこれで防犯は心配ないだろ」

「お疲れさま」

二人は火の前にある、虎若が敷いてくれただろう草に腰を下ろした。

「もうへとへとだ。今日は寝ようぜ」

「賛成。火はどうする?」

きり丸に賛成した後、兵太夫は視線を虎若に向けた。

虎若は少し考えてから、兵太夫に聞き返す。

「兵太夫、からくりって、獣もかかる?」

「んー……あんまり小さいと、少し当たりにくいかも」

「じゃあ、つけておこう。獣避けに。兵太夫のからくりを信用して、人はこれないと思っておこう」

「お、嬉しいこと言ってくれるじゃん」

虎若の言葉に兵太夫が笑い、それから三人で火を囲うように横になった。

「お休み、虎若、きり丸」

「おう」

「お休みなさい」