食料を集めながら歩き続け、ようやく川を見つけた頃には、すっかり日が暮れていた。 「日が暮れると少し寒いね」 「火を焚こう」 「ぼくに任せて」 夜風に喜三太が身を震わせ、伊助が今までに拾ってきた枯れ枝を並べ、団蔵が火をつけた。 暖を取りながら、拾ってきたキノコや草や木の実やらをあぶる。 「あったかい〜」 「喜三太、ナメクジを近づけないようにね。危ないから」 「うん」 「今日は歩いたなあ」 歩き続けてすっかり疲れ果てて、団蔵はもう動きたくないと声を上げた。 「川まで来たはいいけど、誰もいないし」 「うん……誰かいるかと思ったんだけどな」 「伊助のせいじゃないよ。明日また探そ」 焚き火に当たって顔を緩ませながら、喜三太が笑う。 二人も、今日のところはしょうがない、と苦笑をにじませながら笑った。 「大分歩いたけど、団蔵、西の山っていうのはここからまだ遠いの?」 「いや、もう大分近づいたはずだよ。暗くてよく分からないけど」 方角と歩いた距離を考えれば、その川を辿ればすぐに山に入るんじゃないかと、団蔵が言った。 「山が近い、か……獣避け対策に、火をつけ続けていた方がいいかも」 「そうなの?」 「ああ、そういや父ちゃんも言ってた。獣は火を怖がるんだってさ」 首をかしげる喜三太の横で、団蔵が思い出したように頷く。 川にたどり着くまでにたっぷり枯れ木を集めていたので、薪には困らない。 一晩中それをもたせるための配分を考えて、伊助が薪をより分けた。 その頃には木の実なども良い感じに焼きあがっていたので、三人でそれを分けて食べる。 「まさか森の奥、山と言ってもいい場所でこんなことをするはめになるとはね」 「忍者だもの。山の中で夜を明かす、なんてよくあるんじゃない?」 「いや、寝ないのかもしれないぞ」 適当に雑談しながら、食事を取る。 水もおそらく飲めるだろう、と伊助と団蔵が判断したので、 木の実の中身をくりぬいて、よくすすぎ、そこに水を入れて火にかける。 適度に温めて、白湯になったそれを三人で飲んだ。 「あったまるね」 「うん、ああ、なんだか学園のお茶が恋しくなるね」 「言うなよ」 学園の話題が出たことで、伊助がやや顔を暗くする。 「どうしたの、伊助?」 「先生たち、心配してるだろうなあ、と思って」 「帰ったら絶対怒られるな」 「はにゃ!それは大変!」 喜三太が立ち上がろうとしたが、それを団蔵が捕まえた。 「さっき言っただろ。夜の森は危ないんだって」 喜三太は言葉を詰まらせて、座りなおしてから夜空となった空に向かって声を上げた。 「うう……先生ごめんなさあい」 「それは帰ってから、言おう」 「そうそう。今日は休んでおこう。体力を取り戻しておかないと」 白湯を飲み終えて、焚き火が消えないようにし、三人は固まって丸くなった。 喜三太はナメクジたちを抱え込もうとしたが、 壺は冷たいから手を放すように言われ、渋々少しだけ離れたところに置く。 「ごめんね、ナメさんたち。お休みなさい」 今にも泣きそうな顔で壺を見つめる喜三太の頭を、伊助が撫でる。 「さ、ぼくらも寝よう」 「うん、お休みなさい」 「お休みぃ」 「もう歩けなぁい」 「って、しんべヱ言ってるけど」 「うーん」 食事の後、またみんなを探して歩き続け、疲れ果てて座り込んだしんべヱの泣き言に、 金吾は庄左ヱ門指示を仰いだ。 庄左ヱ門はしばらくしんべヱを見つめ、それから大分暗くなっている空と、辺りを見回した。 「今日はこのくらいにしておこう。 明日のために体力を残しておかないといけないし……夜の森は危険だ」 少し離れた、開けたところまで何とかしんべヱを歩かせ、三人とも座り込む。 金吾が火を起こした。 「金吾、本当に火を起こすの手馴れてるね」 「一人旅が長いから」 実家が相模にある金吾は、家に帰るたびに往復で一ヶ月近くの一人旅をする。 それが大変なので、たいていの休暇は戸部のところで世話になっている。 「ぼくはもう少し薪を拾ってくる。金吾、塹壕を掘れる?」 「え、そりゃあ、掘れるけど……委員会でよく掘ってるし」 いきなり言われて金吾は面食らったが、委員会のことを思い出し、実に複雑な表情で頷いた。 「じゃあ、三人がすっぽり入れる塹壕を掘って。多少は温かいだろうし、姿を隠せる。 しんべヱは金吾を手伝ってあげて」 寝るための場所なのだ、と分かり、金吾は頷く。 しんべヱもよく分からないながらも頷いた。 それからしばらく、金吾としんべヱは穴掘りをし、庄左ヱ門は薪と、 もう少し何か食べるためにキノコや木の実などを拾ってきた。 二人を応援しながら、庄左ヱ門はそれらをあぶる。 二人がへとへとになって出てきたところで、それらを差し出した。 俄然しんべヱは元気をだしてそれにかぶりつく。 金吾もへとへとながらもそれに口をつけた。 「結局、誰も見つからなかったね」 「うん、この森、これほど広いとは思わなかった」 「驚くところ違わないか」 金吾は突っ込みを入れた後、ぽつりと呟く。 「野盗はどうしたんだろう」 その言葉を受けて、庄左ヱ門は考え込んだ。 「慌てて入ったように見えるし、そういう振りだとも思えない。 この近辺の人間でもなかったようだから……ぼくたちと同じようにどこかで休んでるんじゃないか」 今までの行動を思い返し、庄左ヱ門はそう結論付ける。 「みんなもね」 「みんな、ちゃんとご飯食べられてるかなあ……」 しんべヱらしい心配に、庄左ヱ門は苦笑した。 「きり丸は自活生活が長いから食べられる食材を知っているだろうし、 三治郎は山伏の修行をしてるから、山に詳しいはずだ。 団蔵や虎若も、家があちこち飛び回る職業柄、野営についてはそこそこ知ってると思うよ」 「それ考えたら、は組ってなかなかの人材がそろってるよね」 しみじみという金吾に、今度はしんべヱが笑った。 「いろんなところから集まってるもんね」 「だからいいんだよ」 そう続けた庄左ヱ門に、二人の視線が集まる。 庄左ヱ門はやや自慢げに言った。 「ぼくらは組は、性格も、特徴も、考え方も、ばらばらな者たちが集まってる。 だから、互いで互いを補って、助け合えば、どんなことだってやれるさ」 庄左ヱ門の言葉に、二人はほう、と息をついた。 「庄左ヱ門、かっこいい」 「なんだか今すごくリーダーっぽいこと言った!さすが庄左ヱ門!」 手放しで褒める二人に、庄左ヱ門もやや照れの表情を見せる。 それから、顔を引き締めた。 「そろそろ眠ろう。明日もみんなを探さなきゃ」 「庄左ヱ門たら照れなくっても良いのに。でもまあ、確かにそうだな」 庄左ヱ門に苦笑しつつ、金吾は焚き火を土をかけて消す。 跡が残らないように、もう少し土をかけて燃えカスを覆い隠した。 それから三人で、金吾の掘った塹壕に入る。 しんべヱを中心に、三人で引っ付きあった。 「しんべヱあったかい」 「体温が高いんだね」 夜だというのに、そのぬくぬくとした体温に、思わず二人がしんべヱを抱きしめる。 「そういえば、乱太郎がそんなこと言ってたかなあ」 しんべヱの思い出すような言葉に、金吾はやや本気で。 「ぼく、今ちょっと乱太郎ときり丸がうらやましくなった」 そう言うものだから、庄左ヱ門は軽く笑った。 それから、金吾の背をさする。 「さ、寝よう」 「……うん」 まるで弟扱いされているようで不服に思いながらも、金吾は目を閉じた。 「お休みなさあい」