木の上から見つけた煙に、五人が近づく。

時折木に登って確認してみたが、その方角に間違いはなかった。

「え、この森そんなに広いの?」

歩きがてら、小声で会話を交わした。

三治郎の見た景色を聞いて、伊助が目を見開く。

「うん、大分遠くまで森が続いてたし……ぼくたち、結構奥に入ってるよ」

「山が近いし……気をつけないと」

木に登れば方角は確認できるし、方向感覚の良い団蔵がいる。

迷子の心配はないものの、見知らぬ森の奥というのは、五人の気を引き締めさせた。

しばらく歩くと、話し声が五人の耳に届いた。

顔を見合わせて会話を止めて、足音を忍ばせて近づく。

「ったくよお、ガキに追いかけられるわ、森に迷うわ、散々だぜ」

「でもよ、ブツは持って来れたんだし、ガキ共もまいたろ。

もう少しすりゃ、森も抜けられるさ」

「そうそう、早いとこ、町に持ち込んで売っ払っちまおうぜ」

男三人の、笑い声が上がった。

木々の隙間からそれを見て、三治郎が顔を顰める。

「あの野盗たちだ……」

「運悪いなあ」

伊助が不運を嘆き、団蔵が茶化した。

「乱太郎のせいか?」

「失礼な」

乱太郎が答えた後、喜三太が不安そうに見渡す。

「それで、どうしよう?先にみんなを探しに行く?」

「そうしよう。庄左ヱ門と合流してから、作戦を立てて……」

伊助がそう言いかけて、固まった。

それからゆっくり顔を上げて、伊助の正面に背を向けていたほかの四人も、

振り返って顔を上げる。

野盗の一人が、五人のすぐ傍に立っていた。

野盗も五人に気付いたようで、一度目を見開いてから。

「お前ら、あの時のガキ共!」

「何だと!?」

「あいつらが!?」

他の野盗も次々に声を上げ、土を蹴る音が鳴る。

五人はすぐさまそこを離れて走り出した。

「ああ、もう!こんなんばっかりだ!」

「どうしよう!?」

「とにかく走れ!」

「ナメさんたち、ごめんね、少し揺れるよ!」

「みんな、はぐれないでよ!」

ばたばたと、各自叫び声をあげながら、走る。

その後を、野盗が追いかけた。

「待て!」

「このくそガキども、全員とっ捕まえて売り払ってやる!」

「追うぞ!」


きり丸が、ふと、足を止めた。

川を探していた虎若が振り返る。

「どうしたの、きり丸?」

「いや、なんか、声が聞こえたような」

と言って、声の発生源を特定しようと、辺りを見回す。

「さっきのことといい、きり丸の耳って、銭以外にも反応するんだな」

「まあ、普通に耳はいいわけだから」

「ちょっと静かにしてろよ」

金吾と兵太夫のやり取りに、やや怒り混じりの声できり丸がそういったので、

五人は押し黙った。

やがて、他の五人にも聞こえるくらい、声の発生源が近づいてきた。

「喜三太、頑張って!」

「ああん、もう疲れたよお」

「団蔵、今、ぼくたちどっち向かって走ってる!」

「多分、川に沿ってると思う!」

「じゃあ川下に向かって……ああ!」

叫びながら、必死に走っていた伊助が、正面に見えたものに、目を見開いた。

「庄ちゃん、みんな!」

「伊助、団蔵、三治郎、乱太郎、喜三太!」

「と」

五人の後ろに、さらに三人の人間がいた。

「待て!」

「ん?」

「ガキどもが増えたぞ!」

自分達が森に入る原因になった野盗たちの姿に、虎若としんべヱが慌てた。

「あの野盗!?」

「わわわわわ」

あわやぶつかる、という時に庄左ヱ門が指示を出した。

「ぼく達も走ろう!団蔵、川下はどっち!?」

「こ、このまままっすぐ!」

「よし!」

走ってきた五人と合流するように、六人も走り出した。

は組十一人がようやく合流する。

「なんでいきなり野盗に追いかけられてくんの!?」

「それはかくかくしかじか」

「文も便利だね!」

「そういうこと言ってる場合じゃないでしょ!」

いっきに賑やか度が上がった十一人は、庄左ヱ門が示した川下の方に走っていく。

「どうするの、庄左ヱ門!」

「確実に逃げ切れる相手じゃない。迎え撃つよ」

「えええ!」

「どうやって!」

は組が口々に叫ぶ中、金吾がふとしたようにぽつりと呟いた。

「互いで互いを補え合えば、どんなことだってできる……」

「え?」

耳の良いきり丸が聞き返した。

金吾は今度はみんなに聞こえるように言った。

「昨日、庄左ヱ門が言ってたんだよ!

ぼくたちは、みんな違う、得意なことも苦手なことも!

だから、助け合えば、何でもできるんだって!」

その言葉に、走りながら全員が目を見開く。

それから、笑って互いを見やった。

「そうだね」

「そうだったね」

「金吾っていうより、庄左ヱ門のいうとおりだよ」

「ぼく達は、何だ?」

「一年は組だ!」

「十一人そろっていれば、できないことなんてない!」

「さすが、庄左ヱ門、は組のリーダー!」

「あ、それ昨日ぼく言った」

「やろう、庄左ヱ門!」

「ぼくらは組の力、見せ付けてやろう!」

「みんな……うん、やろう!」