「それで、まずどうするの庄ちゃん!」

走りながら伊助が叫んだ。

庄左ヱ門は、一通り面々を見渡す。

「誰か、煙玉かそれに類するもの、持ってる人、いる?」

「いやあ、それが」

「こういうときに限って、持ってないんだよねえ」

庄左ヱ門の問いに、兵太夫と三治郎が代表して答えた。

同調するように、他の者も苦笑いした。

「退くのか?」

きり丸が聞くと、庄左ヱ門が頷く。

「体勢を整えなおした方がいい。じゃあ団蔵、川はどっちでここからどれくらい?」

「んー、あっちかな。5分も走れば多分着く」

庄左ヱ門の言葉に、団蔵は思い出すように言った。

「その中で、“ぼく達が”渡れそうな地点は?」

その言葉に、兵太夫がにやりと笑った。

「なーる。分かってきた」

団蔵はまだ意味が分からないながらも、その質問に答えた。

「少し下れば、すぐ、かな」

「よし、その地点まで走るよ。団蔵、先頭走って。最後尾はぼく。

きり丸と金吾は、しんべヱと喜三太を手伝って」

団蔵が勇んで前に出る。

「よし来た」

「分かった。ほら、頑張れしんべヱ」

「喜三太も、手を出して」

きり丸と金吾が、それぞれ手を出して相手を引っ張った。

喜三太は片手でナメ壺をしっかりと抱えながら、必死に走る。

しんべヱも息を切らしながら一生懸命走った。

後ろからの野盗の声は絶えない。

着かず離れず、距離を保ちつつ走り、目的の場所まで出た。

「みんな、急いで川を渡って!」

団蔵を筆頭に、急いで川を渡る。

助け合いながら、全員川を渡りきった。

その後を、追いついてきた野盗も続こうとする。

狙いを定める庄左ヱ門の隣に、虎若が並んだ。

「手伝うよ、庄左ヱ門」

兵太夫に庄左ヱ門が何をしようとしているのか聞いたらしい。

二人で笑い合い、合図をかけた。

「「せーのっ!」」

合図と同時に、二人は泥混じりの川水を、野盗たちにぶっかけた。

怯んだ隙に、何度もかけ、最後には泥団子を投げつけた。

「この、ぺっぺっ口に泥が!」

「気持ちわりぃ!」

「てめ、ら!」

野盗たちの足が止まったのを見て、庄左ヱ門と虎若はすぐにそこを離れた。


まっすぐ走れば、すぐには組の面々に追いついた。

少し方向を変えて走ったところで、一度足を止める。

しんべヱと喜三太と、伊助と乱太郎が疲れたと、息を切らしながら座りこむ。

「これで少し時間が稼げる。

まず、兵太夫、この前のオリエンテーリングで作ってたやつ、作れる?」

「はぁっはぁっもちろん!」

兵太夫も息を切らしながら、だが当然とばかりに笑った。

「虎若は木の上で、周囲の警戒をお願い。三治郎は兵太夫を手伝ってあげて」

「了解」

「うん、分かった」

息を整えながら、二人も頷く。

「喜三太と伊助で、前に補習で習った、あれ……分かる?

探してきて。この辺りには生えているはずだよ」

伊助はすぐに思い当たって、頷く。

伊助が喜三太にもう少し特徴を言うと、喜三太も分かった、と頷いた。

「乱太郎ときり丸で、薬草を探してきて。あれば致死性のない毒草も。

ただし、直接手で触れないこと」

「薬草……分かった」

「余ったら売れっかな……怒るなよ乱太郎。はいはい」

いつものように算段を始めたきり丸を、乱太郎が叱る。

きり丸は渋々と頷いた。

「団蔵は、ぼくと計画立てを手伝って。

金吾としんべヱは、これから塹壕掘って貰うから、ちょっと待機」

「分かった」

「ぜーっぜーっ」

しんべヱはまだ息を切らしていたが、金吾とともに何とか頷く。

全員に指示を出し終えて、庄左ヱ門は号令をかけた。

「それじゃ、行動開始!」


「兵ちゃん、材料集めてきた。これだけあれば足りるかな?」

「ん、十分。じゃ三治郎、そっち繋げてくれる?」

「了解〜」


「んーと……あ、いたいた。川で泥落としてる。目に入ったのかな。顔洗ってるよ」


「喜三太、そっちどう?」

「ちょっとあったよ。伊助は?」

「こっちも。もうちょっと集めたら、戻ろう。喜三太、ナメクジ追いかけちゃだめだからね」

「分かってるよぉ」


「あ、きり丸、そこ、きり丸から見て右手の木の下に生えてるやつ!そう、それ」

「ふーん、こんなのも薬草なのか。よく知ってるなあ」

「保健委員会で学んでるからね。まさかこんなに早く使うとは思ってなかったけど」

「は組はトラブルには事欠かないからな」

「だねえ、あ、左のそれ」

「はいはいっと」

「毒草だから掴まないで!」

「ぎゃ!」


「ふんふん、じゃあここをこうして……団蔵、この位置に塹壕頼んできて」

「あいよ。金吾、しんべヱ、えーと、この辺に、これくらいの塹壕。

深さは、大人が腰まで埋まるぐらい」

「分かった。さ、しんべヱ、掘るぞ」

「お腹空いたなあ……頑張るよ」


「よし、策は立てた。団蔵」

「分かってるよ」


太陽が、真上に昇った。