「みんな、野盗来るぞ!こっちに向かってきてる!」

木の上から、野盗を見張っていた虎若が叫んだ。

「準備は出来た。虎若、下りてきて!」

庄左ヱ門がみんなを見渡した後、頭上に向かってそう叫んだ。

間もなく虎若がするすると木から下りてくる。

「全員、配置について!」

庄左ヱ門のその言葉で、全員がわらわらと散った。

「一年は組、出動!」


「ガキ共はこっちで合ってんのか?」

「ここいらは山と川が近い。地形も険しくなってくる。

すると当然、逃げ道も限られてくるってこった」

「さすがお頭!」

庄左ヱ門と虎若に散々泥をぶっかけられた野盗の三人は、

ようやく泥を落とし、は組を追いかけていた。

「あいつら、泥なんてかけやがって。金目の物奪って、どっかに売り渡してやろうか」

「くだらねえ正義感でしつこく追いかけてきやがって」

「世の中甘くねえってことを教えてやろうぜ」

にやにやと笑いながら、野盗の三人はは組が通ったであろう道をなぞる。

「ん?」

しばらく歩いていくと、ちょうど野盗たちの進行方向に、何かが落ちているのを見つけた。

野盗の一人が駆け寄って、それを持ち上げる。

それは汚れた手ぬぐいだった。

「ガキどもが落としていったのか?」

「だろう。やっぱりこっちだな」

「あ、あっちにも」

他の野盗が、もう一つ何か見つけたようで、小走りに寄る。

その途端。

「今だ!」

どこからともなく、声がした。

「え?」

走っていた野盗は、足に何かが引っかかるのを感じた。

だが慣性で止まるわけにも行かず、そのまま前につんのめる。

バランスを崩した瞬間、足元にあった何かが消え、野盗はそのまま前に勢いよく倒れこんだ。

そこには、先ほど野盗が見つけた、もう一枚の手ぬぐい。

そして倒れこんだ瞬間、その辺りに急に穴が開いて、野盗はそのまま落っこちた。

「うわああああ!!」

「おい!?」

残った二人の野盗からは、その野盗がまるで急に消えたかのように見えた。

それからすぐに、水音が響き渡る。

慌てて追いかけようとする野盗を、頭の方が制す。

「さっき、ガキの声がした。待ち伏せてやがったんだ!おい、大丈夫か!」

頭の方が、動かずに叫ぶ。

少しして、野盗のくぐもった声が聞こえた。

「だ、だいじょぶ……じゃないです!く」

「く!?」

「くっっっさああああああ!!!何だこれ!だたの水じゃない!ゲホゲホゲホ!?」

野盗がむせながら絶叫する。

「くそ、ちょっと待ってろ!ガキども、こそこそしてないで出て来やがれ!叩ききってやる!」

残った野盗が叫ぶ。

その叫びに、どこからともなく笑い声が聞こえてきた。

「そう言われて出て行く馬鹿はいないよ」

「じゃあ馬鹿の代わりに〜喜三太!」

「はあい!」

元気に返事をする声がした。

野盗たちは何が起こるんだと身構える。

すると、上から、ぺとりと湿ったものが降って来た。

「ん?」

「なんっぎゃああああ!?」

野盗たちは、毛虫か何かかと、それに手をやる。

が、触った途端、手がぬめった。

「はぁ!?」

「ななな、ナメクジぃぃぃ!!!」

野盗の頭に、数匹ずつナメクジが居座っていた。

もぞもぞと動いている。

「きも、気持ち悪!」

「上か!?」

わたわたと慌てる野盗の横で、頭が上を見上げる。

ナメクジは髪に張り付いていた。

その途端、頭は横から何かに激突された。

丸太だった。

上を向いていた頭はそれをモロに食らい、吹き飛ばされる。

「頭!」

野盗がようやく丸太の奇襲に気付き、頭の下に駆け寄ろうとした。

頭が地面にぶつかり、それに野盗が追いつく頃に、野盗は急にその動きを止める。

「ぐえ!」

頭上から、空の竹筒がごろごろと降ってきたのだ。

いい音が連続でして、思わず野盗は痛んだ場所を抑えて立ち止まる。

その瞬間、合図がかかった。

「発射!」

「うん!」

ずびびびび、という妙な音とともに、謎の液体が二人に降り注ぐ。

それはナメクジとは比べ物にならないほどべたついていた。

しかも重みがあり、残る野盗もその重さで地に倒れ伏せる。

二人ともまとめて、地に縫い付けられた。

「お、重……何だこれは!」

「とりもちか!?」

動こうとしても、それは粘着力が強すぎて、まるで身動きが取れなかった。

野盗たちがうめく中、あちらこちらから、は組は顔を覗かせて、声をそろえて言った。


「「「だーいせーいこう!!」」」