これもひとつの愛の形


「お前らに遠慮って言葉はねーのか」

ぐふ、なんて唸り声を混じりながらの、ささやかな抵抗。

その抵抗は、すぐさま一刀両断された。

「遠慮なんてしてたら、僕らは今頃ここにはいませんよ」

「遠慮なんてしてたら、私は今頃万事屋の食料を食い尽くしてるネ」

「おい、最後の何かおかしいぞ」

いや、ある意味合ってるちゃあ合ってるんだが。

神楽にこれ以上食べられたら、食料が尽きるのは一目瞭然だ。

いやいや、でなくて。

原点に帰れ、俺。

「何で俺ァこんな状態で捕まってんの」

場所、万事屋の一室。

体勢、下に布団を敷いてのうつぶせ。

状態、ぶっといベルトでぐるんぐるん巻きにされている。

「こうでもしないとアンタ逃げるでしょ」

「親切心から生まれた処置ネ」

「どこが親切心?親切のカケラもないよ」

親切どころか思いやりのカケラもねーんじゃねーか。

俺には悪意満タンのように見える。

いや、沖田君じゃないだけマシなのかな。

……考えるのは止めよう。

この場合、沖田君の存在は抹消しよう。

もちろん、俺の精神上の保全のため。

「で、何で俺が動けないようにしてるの」

「忘れたわけじゃないでしょうね。全治二ヶ月の大怪我ですよ。それで動こうとする方が間違ってます。

少しでも怪我が早く治るように、長引かないようにと、そのために出来る最善の方法を取ったんです」

ぎろりと、珍しく新八が睨みつける。

いや、あんまり迫力はないんだけどね。

つーか。

「これ、最善?最悪の間違いじゃね?」

どこに、けが人を縛り付ける看病の方法がある。

聞いたことない。

ましてや俺はMでもない。

むしろSだとよく言われる。

いやいや、でなくて。

小さくため息をつくと、上からも小さなため息が降ってきた。

「……本当に、心配したんですからね」

ぽつりと、新八が呟く。

それに関しては弁明の仕様がない。

三日間家に帰らず連絡も取らず、ようやく家に帰ったら血まみれだ。

心配をかけさせたという自覚くらいはある。

「聞いても何も教えてくれないし」

おいおい、神楽までしょげんな。

しょうがねえだろ。

今回の仕事は、とてもお前らの耳に入れられるような内容じゃない。

誰かに言えるような仕事じゃない。

かといってそう言えるわけもない。

どうにもこうにもできず。

「……悪い」

とりあえず、謝っておいた。

居心地が悪い。

何となく、降って来る視線が痛い。

「悪いと思っているなら、大人しくしていて下さい」

「次動こうとしたら、二重ベルト巻きの上に天井から吊るすからネ」

なんだかどんどんおかしくなってるぞ。

……まあ、これ以上しょげさせんのもあれだし、大人しくしてることにするか。

その意を伝えると、ちょっとだけ二人が明るくなった。

ま、いいか。

ピンポーン。

浮上した空気に、その音が響いた。

誰だ?

まさか依頼なんてことはないだろうし。

「新ちゃん、銀さんが寝込んでるって聞いて、おかゆ作ってきたの。銀さん、起きてる?」

ピシリと空気が固まった。

しかし、すぐに新八と神楽は顔を見合わせて、にかりと笑う。

「銀さん、すぐに栄養満点のおかゆを貰ってきますからね」

「ゆっくり眠れるアルね」

おいおい、待て待て。

ゆっくりっつか、強制的睡眠というか気絶か。

眠れるって、それ永久の眠りか。

「お前ら……」

顔を引きつかせながら制止をかけようとしたが、二人は嬉々として玄関に走っていった。

「姉上!」

「アネゴ!」

「あら、二人とも。銀さんは?」

「起きてますよ」

「早く、アネゴの手料理食べさせてあげよう!」

そんな会話が聞こえてくる。

ダメだ、逃げられない。

頑張れ、俺の胃。

ああちくしょう。

心配の末の形が、これってどうよ。

心配かけたからって、何もここまでしなくてもいいのに。

ああ、ちくしょう。


「……愛が痛いよー」


これもひとつの愛の形
(何もこんな形で示さなくたって)