何時か終わりが来る事を知っているのに


「アッシュ」

「アッシュ!」

重なった声が自分を呼んだから振り返った。

大切な子たちの声だったから、笑顔で振り返った。

そこにはやっぱり、思ったとおりの彼らがいて。

「何だ、お前達、随分仲良くなったんだな」

初期の頃ではあれほどぎすぎすしていたのに、今では普通に会話するくらいにはなっている。

「なっ、別に仲良くなったわけじゃない!

ただ……ちょっとは認めてやっても……いいかなと思っただけで……」

セプが慌てて否定する。

それでも、最後は恥ずかしいのか尻すぼみだ。

だから、それが仲良くなったことだ、と言うのは止めておいた。

「シンク、アリエッタと仲良くないですか?」

「大丈夫だよ、アリエッタ。それがシンクなりの表現だから」

偽名を呼ぶと、ちょっとセプがむっと顔を崩した。

それに苦笑して、小さく謝る。

「ごめん。ここは人がたくさんいるからな。我慢、な?」

小声で言って、セプはしぶしぶと言った感じで頷く。

「それで、二人揃って、用件は?」

そこで、ようやくハッとしたようにアリエッタが手を叩いた。

忘れていたらしい。

「アッシュ、お誕生日、おめでとう、です」

「……え?」

ちょっと待て。

もう一回。

……誕生日?

俺の誕生日は、と言いかけて口ごもった。

俺が、あの頃ずっと言い聞かされてきていた誕生日は、アッシュ、今のルークのものだ。

よくよく考えれば、俺は、自分の生まれた日を知らない。

“レプリカルーク”がこの世界に生まれた日を、知らない。

知ろうとも、思わなかった。

その沈黙を、知らされた驚愕と取り違えたらしい。(あながち間違ってはいないが)

セプが呆れ気味に言った。

「アッシュ、自分が生まれた日、知らなかったの?僕やアリエッタの誕生日は知ってた癖に」

「ディストに、聞いたです。

アッシュが生まれたのは、ND2011のルナリデーカン・イフリート・38の日だって」

アリエッタは直に聞いたし、セプたちは生まれてすぐに自分が迎えに行ったのだから、知っていて当然。

そして、自分を作り出したのはディストだ。

彼なら、自分が作られた日を知っていておかしくはない。

「俺の、誕生日、なんだ……」

ルナリデーカン・イフリート・38の日。

よく、覚えている。

その日は、全てが終わり、全てが始まった日。

決着が、着いた日。

まさか、その日が自分の生まれた日だとは思わなかった。

きっかり生まれて八年間。

生まれた瞬間に消えたのか、消えた瞬間に生まれたのかは分からないけれど。

その日には、意味が、あったのか。

「アッシュ?」

考え込んでいたら、黙っている俺を不審に思ったのか、二人が訝しげに首をかしげた。

ふるふると頭を振って、二人の心配を否定する。

「なんでもない。本当に、ただ、驚いただけだ。ありがとう、二人とも」

人の目を気にして、あまり大声では言えない。

大きな動作も出来ない。

代わりに、二人は笑うことで意を示した。

俺も、二人に笑い返してやる。

ルナリデーカン・イフリート・38の日。

全てが始まった日。

俺が帰って来た日。

次は、一体いつになるのだろう。

全てが終わり、全てが始まる日は、いつになるのだろう。

まだ、分からない。

けれど、いつか“終わり”が来ることだけは確実で。

その時、まだ俺が生きていられるかどうかは、分からない。

こうして、この子達と笑い合えているのかどうかは、分からない。

それでも、今だけはこうしていたいと。

全てが始まる、“来るべき日”まで。

ただ、僅かな時間を、慈しんでいたい。

色々な思いと、複雑な心境を笑顔に隠す。

「ありがとう」


その言葉に、全てを詰め込んだ。


何時か終わりが来ることを
知っているのに
(せめて、今この手にある幸福を)