敷き詰められた硝子の破片の上を歩くように ○月×日 今日もまた、人を殺した。 盗賊だった。 考えれば、自分達はそれはもう目立つパーティだ。 何しろ一応俺を含めると王族が二人。 貴族が一人。 アニスも入れて軍人が三人。 しかも、ジェイドはとても名が売れている。 とくれば、目立たないはずがない。 盗賊にとっても、格好の的だったのだろう。 俺は三人殺した。 みんなが二人ほど殺した。 一人逃げた。 ジェイドが追わなくてもいい、というのに、すごく安心した。 ○月△日 今日も人を殺した。 神託の盾騎士団の兵士だった。 師匠と敵対している以上、師匠の配下が襲ってくるのは、当たり前のことだ。 当たり前になってしまっている。 もう何回目なのか分からない。 出来れば、彼らと一度、話がしてみたかった。 出来なかった。 真っ先にガイが先頭を切って向かっていった。 俺も続いた。 今日は五人殺した。 みんなが三人殺した。 一人残らず殺した。 本当は埋葬してやりたかったのだけれど、前にそういったら、甘いと怒られた。 言い出せなかった。 せめて安らかに眠れることを祈る。 ○月□日 最近、体の調子がおかしい。 息切れとか、めまいとかそういうのじゃない。 胸の辺りが痛むのだ。 ちくちくというか、ずきずきというか。 上手くいえないけど、そんな感じだ。 そういえば、随分前にも感じたことがあった気がする。 もしかしたらレプリカ特有の症状なのかもしれない。 ジェイドに相談しようと思ったけど、最近ただでさえジェイドは疲れているようなので、止めておいた。 戦えないくらいに痛み出したら、さすがに聞こうとは思う。 ○月◇日 今日も人を殺した。 最初は神託の盾兵だと思ったけれど、殺した後に乖離してしまったので、彼らがレプリカだと知った。 俺と同じレプリカ。 彼らも何か考えていたのだろうか。 人間と同じように。 今となっては分からない。 俺に分かるのは、乖離しても彼らが何も言わなかったことと。 その身を貫いた感触だけ。 レプリカが乖離した後、その体を構成していた音素がどこに行くのかは知らない。 でも、できればもうあんな生を受けることがないように、祈る。 俺の同胞へ。 せめて次生まれてくるとしたら、幸せに。 ○月▽日 今日もまた人を殺した。 今度は本物の神託の盾兵だった。 何故だか最近、人を殺す時、頭の一部がぼやけるようになってきた。 戦闘に支障はないけど、何だか不安だ。 そう、頭の中に不安というものが形を持って広がる感じだ。 よく分からない。 そういえば、怪我をした時にも似たような感じがした。 怪我をすると、ナタリアかティアがすぐに治してくれるから、本当に短い間だけれど。 最近変なことが多い。 まさかレプリカ特有の病気なのかな。 そういうものがあるかどうかは知らないけど。 もしそうで、これからの旅路に支障が出るなら大変なことだ。 やっぱり今度ジェイドに相談してみよう。 (破れている) ×月×日 瘴気中和をした。 何とか生き残れた。 でもその反動で乖離寸前だ。 多分、生き残れない。 ×月△日 アブソーブゲートを止めた。 エルドラントに入るためだ。 そのためにラルゴを殺した。 ラルゴはナタリアの父親だった。 とても、悲しかったんだと思う。 でも、ナタリアは立ち止まらなかった。 やっぱりナタリアは強い。 俺も、ナタリアみたいになりたい。 ×月□日 ラジエイトゲートを止めた。 エルドラントに入るためだ。 そのためにモースを殺した。 モースは第七音素を無理に注入したせいで、異形の生き物と化していた。 何であんな結末しかなかったんだろう。 体の一部が透ける頻度が高くなってきた。 いよいよ乖離が近いのかもしれない。 ×月◇日 明日は決戦だ。 きっと俺は死ぬ。 でも何とかここまでやってこれた。 (破れている) 頑張ろう。 ×月▽日 ごしゅじんさまは、かえってこなかったですの かわりにあっしゅさんがかえってきたですの みゅうにはむずかしいことはよくわからないけど このにっきはもやされることになってしまったですの みなさん、ごしゅじんさまをわすれようとしているですの でも、みゅうはずっと、ずーっとわすれないですの ごしゅじんさまがこのにっきにおいていってしまったもの ぜったい、わすれないですの だから、それはみゅうがもっていくですの ごしゅじんさまは、ずっとみゅうといっしょですの 敷き詰められた 硝子の破片の上を歩くように (生き抜いて削られていったもの)