このてにあまるほどの 「陽夢、目を開いていいぞ」 ナルトにそういわれ、陽夢は閉じていた目をゆっくりと開く。 そこには、一面の花畑が広がっていた。 「わあ……っ」 ナルトに抱きかかえられていた陽夢は、地面に降ろしてもらうと、花畑にしゃがみこんだ。 「お花畑、だあ……」 そして、色とりどりに咲いている花たちを眺めていく。 「陽夢、あまりはしゃがないようにな」 「分かってるわ」 ナルトの注意に少しだけ困ったように笑い、陽夢はまた花を眺めた。 それを満足そうに眺めるナルトの横に、クオが立った。 「ここまで、長かったな」 「ああ」 陽夢に聞こえない程度に、呟きあう。 元はと言えば、陽夢が言ったことが始まりだった。 何かの本で、場所によっては一面の花畑が広がっていると知り。 「一度、行ってみたいなあ」 と、呟いたのだ。 病弱で、滅多に家から出られない陽夢の望みをかなえるために、ナルトとクオが奔走したのだ。 まず、人里離れた花畑を見つけること。 次に、その花畑に、家と花畑を結ぶ時空間忍術の仕掛けをすること。 これに時間がかかったのだ。 今三人のいる花畑は、火の国の中でも僻地中の僻地。 周りを険しい崖と山に囲まれ、滅多に人の訪れることの無い場所。 その場所と、ナルトたちの家を、陽夢の体に負担がかからないように、 隙無く綿密に結ぶのに、日数とチャクラと技術を多分に使ったのだ。 最後に、その花畑に結界を張り、陽夢の体調に影響を及ぼさないように空気の清浄さを保つこと。 そこまでの準備を終えて、ナルトたちは花畑へと陽夢を連れて来たのだ。 にこにこと、生まれて初めて見る花畑というものに、陽夢が嬉しそうに笑う。 その表情に、ナルトとクオも少し顔を緩めた。 そして、クオの顔が、少し苦痛そうに歪む。 「不憫なものだな。誰よりも優しいあの子は、その体の特異性ゆえに、ろくに外に出ることも出来ない」 「ああ」 ナルトは無表情だった。 ナルトとて、任務の最中に、この程度の花畑ならそれこそ山のように見ている。 その中から、条件のいい花畑を選んだわけなのだが。 「だが、その陽夢のために俺に出来ることがある。今日だって、こうして外に出てこられた」 「……そうだな」 「陽夢の体が特殊なら、俺がそれを補うだけの術を作ればいい。それだけだ」 ナルトはそういうと、花畑の真ん中で楽しそうに何かをしている陽夢へと歩み寄る。 クオはその光景を、目を細めて眺めた。 「陽夢」 ナルトが声をかけると、陽夢は首だけで振り返って、にこりと笑った。 「ナルト」 「何だ?」 「目、つぶって」 陽夢が笑いながら言った。 ナルトは疑問に思いながらも、言うとおりに目をつぶる。 すると、ふと、ふわりとしたものがナルトの頭に乗せられた。 「目、開けてみて」 そしてナルトが目をあけて、頭に乗せられたものに、触れる。 さら、と葉が揺れた。 少しして、ナルトはその正体に思い至る。 頭上から、花の香りがする。 「……花冠?」 「そう、一度作ってみたかったんだ。 ナルトとクオが花畑に連れて行ってくれるって聞いて、こっそり練習したの。 本物で作るのは初めてなんだけど、上手く行ってよかった!」 それから、自分の分も作ったらしい陽夢は、それを自分の頭に乗せる。 「あのね、ナルト」 「ん?」 「私は確かに病弱だけど、ナルトがいて、クオがいてくれる。これ以上の、幸せはないよ」 少し花と草に汚れた手で、ナルトの手を掴んだ。 「ここのお花達が太陽や水で綺麗な花を咲かせるように、 私だって、ナルトたちがいてくれるだけで、とても幸せになれるの」 ナルトが僅かに目を見開く。 それから、かすかに口角を上げて、微笑んだ。 「そうか」 「うん」 頷きあって、それから一緒に花畑に座り込んだ。 陽夢が、本で得た知識から、あれは何の花、どんな花言葉とナルトに教えていく。 ナルトは時々、任務や伝聞で得た、花に関することを陽夢に教えた。 二人とも、嬉しそうに。 それを眺めながら、クオもまた嬉しそうに笑った。 「いい天気だな」 このてにあまるほどの (誰かのための、楽園)