あなたがくれたもの


「もう、決めたことなのじゃな」

「はい」

暗闇の中、明かり一つの下、二人。

周りは闇。

背には使い慣れた武器を背負い。

正面には三代目。

この身には、ある特定の位に着く者だけが着ることを許される装束を纏い。

ここには自分達以外誰もいない。

そしてこの手には、面。

俺は今この瞬間、暗部の所属となった。

俺の年を考えれば、異例かつ異常であることは分かっている。

暗部の世界がどういうものであるかも知っている。

それでも俺は暗部を志した。

「俺はこの里を、父が、母が、貴方が愛するこの里を守りたいのです」

里と、俺と、そしてこの身に宿る九奈を守るために命を散らした両親。

俺に生きるための力を、それからたくさんのものをくれた三代目。

彼らのために、出来ることがしたかった。

ここは木の葉の里。

忍の里。

ならば、答えは簡単だった。

里を守りたいのなら、忍になれば良いのだと。

そう悟ることは、そう難しいことではなかった。

だから、俺は忍を目指して、そして年齢に関係なく入隊できる暗部に目をつけて。

そしてようやく今日、正式に忍になった。

里の長である三代目から、面を受け取った。

「無理はせぬでないぞ。辞めることは、いつでも出来るからな」

「辞めるつもりは、ありませんよ」

忍になると、決めたのだから。

三代目が、手を伸ばした。

ふわりと、頭を撫でられる。

まだその皺だらけの手が、大きく感じた。

「わしがお前にしてやれることなど、本当に些細なことばかりじゃ。済まんのお」

三代目のその言葉に、俺は緩やかに首を振った。

些細?

そんなことはない。

だって。

「あなたがいなければ、俺は今ここに立っていません」

ただ一人残された赤子。

そのままでは、到底生きていくことなど出来なかった。

「生きていません」

生きるための術を、身を守るための術を、そして戦うための術を。

まだ九尾という存在への憎悪の消えぬこの里で生き抜くために必要なものを。

三代目は、俺に与えてくれた。

そして。

「あなたは俺の望みを叶えてくれました」

忍として生きること。

もし相対するのが三代目でなければ、叶わなかった可能性なんて、考えるまでもなく。

だが三代目は、俺のその望みを叶えてくれた。

それらは決して些細なことではない。

「俺は、あなたに感謝しています」

そう、それは命をかけるに値するほどに。

「ですから」

だから。

「あなたにも何か望みがあるのなら、何なりと命じてください。

俺はその望みをかなえるために、全力を尽くしましょう」

それで全ての恩を返せるとは思ってはいない。

それでも、少しでも。

誰よりも、里に、里に生きる全てのものに優しいこの人の、力になれればと。

三代目から与えられた力で、この里を守れればと。

心から、そう思う。

俺の言葉に、三代目は小さく口を開いた。

だが、その口から音が漏れることはなく、代わりに優しい微笑みがその顔に乗せられる。

「わしは、お前が生きていてくれるだけで嬉しい」

飲み込まれた言葉が何だったのか、俺には分からない。

それでももちろん、決意を変えるつもりはない。

「……宣誓を」

三代目は、一つの拍を置いて、頷いた。

「これより、お主を暗部の一員として認め、名を与える」

暗部名。

暗部としての、俺の名前、一人の暗部を定義するもの。

「お前には、“煌”の名を与える。煌きと書いて、“コウ”じゃ」

煌き。

光り輝くもの。

それはもしかしたら、太陽の光を跳ね返す、俺の金糸の髪を指しているのだろうか。

いや、今は疑問に思うまい。

俺はこれよりその名を纏う。

「確かに、拝命承りました。私の名は、煌。

これより、火影様の手となり足となり、この里のために尽くしましょう」


そうして、ここに一人の暗部が、生まれた。


あなたがくれたもの
(それは、煌(俺)の存在そのものだった)