ちりちりと、肌を焦がす感触。

汚染物質だ。

レギオスの外には大量にあるそれが、自分を焼き付ける。

都市外装備も何もなしに外に出たのは確かに無謀だった。

だが、時間が無かったのだから仕方が無い。

ツェルニの中の幼生は、ほとんど排除した。

生まれたてだったから、ほとんど容易だった。

だからこそ、すぐに母体を殺さねばならなかった。

殺さねば、今度こそツェルニは滅ぶ。

僕も自分の力を過信していない。

もし母体が老生体を呼び、何体もツェルニの元へ向かってきたのなら、間違いなく守りきれない。

多数、もしかしたら都市全員の命と、都市、ツェルニは息絶える。

それは困る。

先輩の端子が母体の元へと先導する。

確かに発見されていた通路に、やはり先輩の念威の力は相当高いものなのだと実感した。

こんな時に実感しても、あまり意味は無いが。

やがて、母体の元へとたどり着いた。

時間はあまりない。

さっさと青石錬金鋼を剣の形に復元し、振り上げる。

「生きたいか」

汚染物質が肺を焼く速度が早まる。

それでも、語りかける。

「子を為し、栄養を得、生きようとするのは生き物の本能だ」

人間も、他の動物も、汚染獣も、何も変わらない。

ここに、生きている。

だから、生きたい。

それだけだ。

それだけの理由で、僕たちは、彼らは、みな、生きようとする。

きっと、この汚染獣も生きたいだろう。

生きたくて生きたくて仕方が無い。

だから生きている。

そしてそれは。

「僕も同じだ」

剄を練り上げる。

多く多く、鋭く鋭く、大きく大きく。

「僕は欲望だらけの人間だ。いっそ本能しかないあなたたちの方が、美しいのかもしれない」

練り上げるにつれて、青石錬金鋼が煌きだした。

強い強い光を放つ。

「それでも僕は生きたい。生きるためにはあなたが邪魔だ。だからあなたを殺す」

単純な、三段論法。

それを唱えたのは、誰だったか。

剣を、振り下ろす。

十分に練られた剄が、母体を深く深く切り裂く。

幼生とは比べ物にならないほどの、血、体液、重み。

それらを全て受け止めるように、言葉を紡いだ。

「僕は詫びない。恨みたければ恨め。あなたにはその権利がある」

剣についた液体を払う。

臭いは、おそらくなかなか落ちないだろう。

それほど、汚染獣の体液の臭いというのは、強いのだ。

まるで、生きることへの執着を表しているかのように。

生きたい生きたい生きたい。

そう。

「あなたなら分かるだろう。生きたいんだ、僕は」

僕たち人間と、汚染獣には、何の違いも無い。


返事は、なかった。


くらやみで、ひとり
(いきたがったのは、だれ?)