町から少し離れた、山。 人気の全くないその山の頂上で、一人の少年が喋っていた。 誰もいない場所に向かって。 宙に、浮いて。 とても、とても楽しそうに。 「それでさ、その時そいつがおっかしくって!」 すると、少年の声に応えるように、風が少し動く。 その風は、音を発した。 『まあ、それで?』 少年はまた嬉しそうにあったことを話していく。 時折それに応じて、少年の周りの風は声を発して相槌を打った。 そうしてしばらく話して、少し日が暮れた頃。 『終様、もうそろそろ帰らねばならぬお時間では?』 少年に相槌を打っていた声とはまた違う声が、少年の周りから響く。 声をかけられた少年、竜堂終は、慌てて空を仰ぎ見る。 「やっべ、もう暗くなる!早く帰んないと夕飯食いそびれる!」 『そうね、そろそろお帰りなさい。私はいつも、ここにいるから』 慌て始めた終に苦笑の声を上げてから、それは優しそうに促した。 終は一度照れくさそうにしてから、大きく頷く。 「ああ。また来るよ、舞。それじゃ、帰ろうぜ、影」 『御意に』 ふわ、と終の体は高く舞い上がる。 「じゃあな!」 そう声をかけて、終は飛んだ。 家から少し離れたところで、終は着地する。 「よし、誰もいないな?」 『はい』 終の声に、周りの声が応える。 満足そうに笑って、終は歩き出した。 「この分なら、夕食に間に合いそうだな。……影、いつも言ってるけど、家に帰ったら、余計なことはするなよ」 終は右斜め上辺りを睨みつけながらそう言う。 『…………御意に』 たっぷりと間が空いた後、そう返事が来た。 その返事に少し不服そうにしながらも、終はまあいいや、と顔を元に戻す。 「今日の夕飯は何かな」 『…どうやら、終様の従姉妹が来ているようで』 「茉理ちゃん、来てるんだ!そりゃ楽しみだ」 軽やかに足を運びながら、終は嬉しそうに笑った。 そして、家の前について、一度大きく深呼吸をして。 それから勢い良く家の扉を開けた。 「ただいま!今日の夕飯は!?」 秘密の遊び場 (誰も知らない、俺だけの秘密)