――嫌だ……


――嫌だ……


――大切な誰かを、目の前で失うのは……


――もう、嫌だ!


自分勝手な博愛主義者達


視界いっぱいの、森。

それが目に入った瞬間、少年の意識はいきなり覚醒した。

「起きた?植木君」

「ナガラ……?」

植木が声がした方に顔を向けると、ナガラが山菜を火で焼いていた。

それを確認した後、植木は自分が木に寄っかかっていたことに気付いた。

同じ木に、ハイジとソラももたれかかっている。

何があったんだっけ、と植木は気絶する前の記憶を探った。

(選考会に勝って、外に出て、それで……)

そこで、気絶する寸前の記憶を思い出した。

「ナガラ、あいつは!?森は、ウールは!?」

思い出して、頭の中がぐるぐると回りだす。

(どうして、森が……それに、俺のこと、覚えてなかった……?)

何がなんだか分からない。

植木は頭を抱えようとして、抱える手があることに気付く。

その手は、先ほどの“あいつ”に切られたはずの手だった。

「!?」

「植木君、とりあえず落ち着いて。ハイジとソラが起きたら、まとめて色々話すから……」

ナガラの顔に、少し影が差している。

植木は、気絶する前に、ナガラが“あいつ”に言ったことを思い出した。

(確か、ナガラ、あいつのこと、“兄さん”って……)

ナガラにも色々事情があるのだ、と思った植木は、とりあえず、体を休めることにした。

おそらくウールは連れて行かれたのだ。

だとすれば、この後は、必然的に戦いが待っている。

その時にふらふらでは元も子もないのだ。

来るべき戦いのために、植木は目を閉じた。


しばらくしてハイジとソラも目を覚まし、ナガラは兄、プラスのことを話し始めた。

二人は昔、メガサイトについて研究していた兄弟で、

ウールや植木の持っているモップの棒は、その時に持ち帰ったものであること。

ナガラが社交的で、多くの人と接していた一方、

プラスは人付き合いが下手で、いつも寂しがっていたこと。

ナガラはプラスを励ましていたのだが、

あるときプラスは、人付き合いを克服するためにある方法をとることにしたこと。

初めての人に出会うから、自分は話せないのだと。

ならば、その人にとって、自分が初めての人でなければいい。

最初からその人にとって自分が知り合いであれば、自分はもっと人と接せられるはずだと。

全ての人がそうなれば、自分はもう、決して寂しい思いをしなくてもいい。

そう思ったプラスは、研究を進めていたウールを使い、

繁華界とは別の世界を、自分のための世界にすることを決めたこと。

それを聞いていたハイジは、当然のことだが、怒りを顕わにした。

「ふっざけんな!

植木のいた世界を、自分のために、自分が苦しくならないためだけに、めちゃくちゃにしちまうなんて!」

「うん……間違ってるよ。私だって、ずっと、ずっと一人ぼっちだったけど……

絶対に、いつか手を差し伸べてくれる人には、出会えるんだから」

ソラが笑う。

それに応えるように植木も笑い、ナガラも小さく笑った。

「ソラの言うとおりだよ。それでオイラは、兄さんを止めるため、

協力してくれる人を探すため、ある人から洗濯屋を引き継いで、仲間を探し始めたんだ」

ナガラの能力は、砂時計に癒を加える力。

それで自分を含む四人の怪我を治したのだと、ナガラは説明した。

説得はとうに飽きるほど繰り返していた。

最終手段として、ナガラは力ずくで兄を止めることにしたのだ。

だが、戦闘に向かない力では、プラスをとめることができない。

だから、一緒に戦ってくれる仲間を集め始めた。

施設からソラを引き取った。

自分の洗濯屋に働くことになったミリーから、ハイジのことを聞いた。

そして、三界からやってきた植木。

その時、時は来たと思った。

植木がウールを連れて来たことから、プラスが行動に出始めたことはわかった。

ナガラは三人を連れて、選考会に出ることに決めたのだ。

「ごめんね、オイラの事情に巻き込んじゃって」

「気にしないでー。

私は元々、行き場の無かった私を拾ってくれたナガラっちに感謝してるくらいなんだから」

「ミリーを助けてくれたこともあるしな……何より、行くと決めたのは俺自身だ。

ナガラがどうこう言う必要はねえよ」

申し訳無さそうに言うナガラに、ソラとハイジは笑い返した。

「二人とも……」

ナガラは二人の言葉に感動しながら、植木に視線を移す。

植木も、満面の笑みをナガラに向けた。

「オレだってハイジと一緒だよ。オレが来たいから来た。オレがやりたいからやる。

オレが一緒に戦いたいから、みんなと一緒に戦うんだ」

潔いその言葉に、ナガラは小さく笑うのをこらえられなかった。

それにつられるようにして、他の三人も笑みを零す。

「ホント、我ながら変な子ばっかり集めたと思うよ」

「おい、それってミリーも入ってんじゃないだろうな!?」

変なところに反応したハイジが怒り出す。

ナガラはハハハと笑った。

植木とソラも、ハイジを宥めながら一緒に声を立てて笑う。

「ありがとう、みんな。キミ達はサイコーだよ」


それからしばらく、治療も兼ねてみんなで笑いあった。