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ある日突然、ツナとママンが姿を消した。


本当に何の前触れもなく、突然だ。

ママンは買い物に行ってから、ツナは放課後、獄寺たちと別れてから消息がつかめない。

どこかしらの奇襲の線も考えた。

だがツナはそれなりに強くなったし、超直感もある。

Xグローブも持ち歩くように常々から言っておいた。

それこそマフィアのボス級でもなければそうそうは捕まえられないはずだ。


だが、仮定の話をしていても仕方がない。

日本に閉じこもっていても何も分からないから、俺は本国イタリアに戻ることにした。

「それじゃ、日本は頼んだぞ」

「ええ、任せて。何か情報が入ったらすぐに知らせるわ」

「十代目をお守りできないとは…何たる不覚!」

一応並盛に何かあった時のことを考えて、ビアンキと獄寺を残す。

シャマルも今は隠れている身だから日本に残る。

とりあえずは安心だろう。

山本たちはそもそもここの住人だから、必然的に残ることになる。

「よく分かんねーけど、ツナを頼んだぜ」

「沢田はボクシング部に入るべきなのだ!必ずここに戻ってくる!」

マフィア以外の面々には、急に遠くに引っ越すことになったと言って置いた。

ツナとママンは日程の都合で急いで旅立ったとも。

「もう、お兄ちゃんたら…でも、リボーン君、ツナ君によろしくね」

「ランボちゃんとイーピンちゃんもいなくなっちゃうなんて、ハル悲しいです〜」

ランボとイーピンも、それぞれ故郷へ戻ることになった。

「ボスが帰って来いって言うから〜」

「謝々!」

全員、旅立つ俺達を空港まで見送りに来ていた。

正確には全員便はバラバラだが。

(ランボにはファミリーから迎えが来ていた)

「そろそろ時間だ。じゃあな」

みんなと別れて飛行機に乗り込む。

完全に姿が見えなくなるまで、賑やかな声は続いていた。


ツナが行方不明になってから、三日経った。

イタリアに着いて、ボンゴレ本部にいる九代目の下へ向かう。

既に連絡は行っているだろう。

敷地内へ入って向かう途中、声をかけられた。

「リボーンさん!」

振り向くと、チェデフ、ボンゴレ門外顧問所属のバジルがいた。

「お久しぶりです。日本からの長旅、お疲れ様でした」

「ああ」

構わず歩く俺に、速度を合わせてついてくる。

「お前がいるってことは、家光も来てんのか?」

「はい。今、九代目と面会しているはずです。

…沢田殿が行方不明になった件についても、話しておられると思います」

「だろうな」

ツナはボンゴレの正統な血統の血筋の末裔。

且つ、ボンゴレ十代目最有力候補者。

それが行方不明となっては九代目も黙っちゃいない。

ましてや、家光からしたら、妻と息子がいっぺんにいなくなったわけだしな。

「親方様が、ようやく短い休みを得て、お帰りになられるところでしたのに……」

「あいつ、帰ってくるつもりだったのか」

楽しみにしていた分、衝撃も大きいだろうな。

「はい。先んじて手紙をお出しになってましたよ。それはそれは嬉しそうでした」

……待て。

「手紙、出してたのか?」

「はい。五日程前に。届いてなかったのですか?

リボーンさんが出立する前には届く予定だったと思いますが……」

バジルは不思議そうに首をかしげている。

手紙なんて、見た記憶がない。

ツナとママンの行方不明から、何かないかと家中を探し回ったはずだ。

五日も前に出したのなら、三日前には届いていたはずだが。

……。

「リボーンさん?」

待て、そんなはず、ない。

でも確証がない。

むしろ、その方が全てのつじつまが合う。

でも。

理論的に導き出された結果が、間違っていればいいと、切に思ったのは初めてだ。

「リボーンさん、屋敷に着きましたよ。拙者はここで親方様の帰りをお待ちしているので」

いつの間にか広い前庭を抜け、本館についていた。

入り口でバジルが離れ、敬礼する構成員を尻目に、九代目の執務室へ向かう。

まずは、裏づけをとる。

全てはそれからだ。


十数時間前。

日本の空港では、ランボたちが飛行機の時間を待っていた。

「ランボさん、暇ー」

「あともうちょっとでランボちゃんともお別れですか…ハル、悲しいです」

「うん、なんだか寂しくなるね…」

空港のロビーで、別れを惜しんでハルと京子がランボと一緒に座っていた。

山本と了平はイーピンを搭乗口近くまで見送りに行っている。

獄寺とビアンキは、何やら空港内を歩き回っているらしい。

「でも、落ち込んでたら遠くに行ったツナさんにも心配かけちゃうです!

きっとまた会えるんですから、もうちょっと明るく行きましょ!」

ハルがわざと明るい声を出す。

「うん、そうだね」

京子も笑った。

「あれ、なーに?」

すると、座っていたランボが突然走り出した。

「あ、どこ行くんですか、ランボちゃん!」

二人で慌てて追いかけると、ランボは止まって上を見上げていた。

追いついた二人がランボの視線を追うと、そこには掲示板があった。

「これは掲示板だよ。広告とか、メッセージとかを貼ったり書いたりするの」

「ふーん」

「これがどうかしたの?」

特に何の変哲もない掲示板だと思うが。

「イタリア語、書いてあったからさー、日本じゃ珍しいと思って」

「へ?」

「イタリア語、ですか?」

ランボの出身はよく知らないが、イタリア語が読み書きできることは知っている。

だから、そこは大して驚かなかったのだが。

「どこですかぁ?」

「ここ」

二人でランボが指差したところを覗き込んだ。

だが、覗き込んだところで、なんて書いてあるのかは読めない。

「なんて書いてあるの、ランボちゃん」

んーと、とランボは文字を目で追う。

書いてあることを読み上げたランボに、二人が目を丸くした。

「なんでそんなことが、こんなとこにイタリア語で書いてあるんですかね?」

「さあ……」

二人が訳が分からないと首をかしげていると、

ボヴィーノファミリーの迎えが、時間が来たことを知らせに来た。

京子とハルは涙ぐみながらランボを見送って、その後山本たちと合流して、空港を後にした。

掲示板の、イタリア語のメッセージの下には、小さく他の文字が並んでいた。


二日前の日付と、“quaranta−quattro”という文字が。