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コンコン、と扉を叩く。

中から、入室の許可を与える声が聞こえて、ゆっくりと扉を開いた。

「久しぶりだな、リボーン」

「ちゃおっす、久しぶりだな九代目。こんな形では会いたくなかったな」

中にいたのは九代目と、家光。

顔にまで多少の焦りが出ている家光を見ると、やはりツナとママンの話らしいな。

「ちょうど、例の話をしていたところだ」

「そうか」

九代目と話す時の定位置まで移動する。

つまりは客用のソファ、だが。

「ちょっとそれについて九代目と家光に確認したいことがあるんだが、いいか?」

否とは言わせない。

そこに、微かな希望を見出しているのだから。

どうか推測が間違っているようにとの。

「何でも聞いてくれ」

「じゃあ聞くぞ。家光、お前前に家に帰ったのは、いつだ?」

思ってもいない方向からの質問だったのか、家光がちょっと呆けた。

「ちょっと待て、確か……七年くらい前、だったか」

言葉にすると、結構前だな、と独り言のように続ける。

「どのくらい滞在した?」

「その時はボンゴレの継承の話でも結構ゴタゴタしてたからな。

3日くらいで本国に帰ったと思う」

「それが一体ツナヨシの失踪と何の関係があるんだ?」

大有りなんだよ、九代目。

「材料がそろってから話す。さらにその前は?」

「その前だと、九年前には確か帰ったな。

ちょっとした休暇をとって、一週間くらいはいたと思うぜ」

「留守にしている間は?どのように連絡を取っていた?」

俺が言いたいことに感づいたのか、九代目の目がやや険しくなる。

「世界中飛び回ってたし、潜伏が多かったからな。

手紙がほとんどだったと思う。電話しても数分とかそんな程度だったな」

くそ、これじゃあ俺の推測を裏付けるだけだ。

「…次は九代目に聞きたいんだが、もう俺の言いたいことは分かってるんじゃないか?」

九代目の返答は沈黙。

やっぱり分かってやがるな。

「……調べようと思えば、ツナヨシがボンゴレの血統であることは分かっただろうな。

だが、主だった後継者候補はフェデリコたちだったし、

なるべくマフィアに関わらせたくなかったので……

いや、言い訳に過ぎんな、大した注意は払っていなかった」

そこで、家光も気づいたようだ。

「そんな、バカな……!」


俺だって信じたくない。

そう思えるほどに、あの日々は捨てがたいものだった。

だが、現実というのはいつだって残酷で。

「家光、手紙、出しただろ?これから帰るっていう内容の」

「……ああ」

家光の声は掠れきっている。

「手紙、俺は見てねーんだ。さっき外で会ったバジルに聞いて、初めて知った」


ここまでくればもう大方の予測はついているのだろう。

この先も言わなくても分かるだろうが。

それでも、あえて俺はこの事実を告げる。

「手紙が届くはずだった日は、ツナとママン失踪の前日」

顔を、帽子のつばで少し隠す。

「これから導き出される俺の結論は」

それは沈黙と希望を打ち砕く宣告。

「ツナとママンは、とっくに誰かの手に落ちていたってことだ。おそらくは、七年前に」

七年前から、家光は全く家に帰っていない。

なら、その後のことはいくらでもごまかしの利くことだ。

けど、帰ってくるという手紙を受けたから。

家光に直接会えば見抜かれると思ったから、彼らは姿を消した。

そういう結論になる。

「奈々が……綱吉が……!」

否定するように家光はうなだれる。

その気持ちは分かるんだが。

「でも、これしかつじつまの合う解答はねーんだ……」

状況は、全てこの仮説を支持してしまっていた。

この仮説を打ち破ってくれるだけの情報が何もない。

今、導き出せる結論は、これしかなかった。

重い沈黙が広がる。

しばらくそうしていたかと思うと、帽子の上のレオンが反応した。

「どうした、レオン」

体をぶるぶると震わせて、落ち着きなくしている。

これは、不吉なことが起こる前触れだ。

これ以上何が起こるのかと身構える。

途端、九代目の携帯が鳴り出した。

九代目はドンとしての顔を取り戻してから、携帯をとる。

「私だ」

『九代目、大変です!』

一体何があったというのか。

『“復讐者”の牢獄に侵入者あり、幾名かが牢獄より脱走しました!』

ああ、なんてことだ。

『現在、脱走者を照会中です!』

「至急済ませろ。終了しだい、こちらで組んだ編隊を向かわせよう」

『はっ!』

電話は、そこで切れた。

「……私は、仕事ができた。君らは一度退室してくれ」

今、ここでできることは何もない。

それよりは、外に出て情報収集に励むべきだ。

頷いて、家光と共に九代目の執務室を出ようとする。

どこから当たるべきだろうか。

考えていると、もう一度九代目の携帯がなった。

「終了したか」

『は、はい。脱走者は三名』

少し間を空けて、もう何度目になるか分からない絶望がもたらされた。

『六道骸の一味です!それから……』

そう、現実はいつだって無慈悲なのだ。

『……手に焔を宿した少年が侵入者に混じっていた、という報告があります』


まるで、足掻く俺達を嘲笑っているかのように。