V それは、本当に唐突だった。 ボンゴレとの戦いに敗れた後、この牢に入れられて、 どうやって脱走しようかと案を練っている時だった。 防音がされているはずの牢に、爆発音が響いたのは。 「何の音です…?」 視界を奪うように真っ暗なこの部屋では、動いたところで何も見えはしないのだが。 それでも、音がした方へ意識が向くのは、条件反射のようなものだ。 少し首を動かしたところで、再びの轟音。 すると、真っ暗だったはずの暗闇に、光が差す。 闇に慣れた目には少しきつかったが、細めて光の方を見る。 光の中に、人影が浮かんでいる。 そしてそれは、序々に大きくなってきた。 近づいているのだ、こちらに。 かつん、と歩く音が響く。 やがて音は、僕の目の前で止まった。 僅かな光源で、その者の姿を確認する。 顔を覆う仮面に、すっぽりと被ったフード付きの黒いコート。 おかげで全くといっていいほど容姿は分からない。 分かるのは、その身長から、多分そう大きくはない子供だということだ。 いや、アルコバレーノの例があるから、子供だと判断するのは尚早か。 問題は、この者が何をしにここへ来、なんのために僕の牢の前で止まったかだ。 「僕に何か用ですか?」 問いかけてはみたが、何も答えない。 代わりに持っていた武器――見たことのない形状だった――で僕の牢と鎖を砕く。 そして、くい、と指を動かした。 「ついてこい、そういうことですね?」 頷きを確認する。 この人は(いかんせん男か女かも分からない)一体どこの誰で何のために僕を助けるのか。 とにかくは、この復讐者の牢から出して貰えるのなら、乗るとしましょう。 走り出す前に、その人は僕にひょい、と物を投げた。 それは僕の三叉槍。 素直に受け取って礼を言っておいた。 「ありがとうございます」 やはり返事はなかった。 扉の外に出ると、すさまじい破壊の後があった。 壁はほとんど原型を留めていないし、あちこちに見るも無残な死体が転がっている。 何か銃器でも使ったのだろうか。 死体や壁が黒く煤けている。 いや、あれは焼かれて焦げた後か。 そこまで考えて、ふと、思い出した。 「ああ、そうだ。一つお願いがあるのですが」 声をかけると、その人は振り向いた。 「このどこかの牢に二人、僕の部下が捕まっているのですが。 ついでに連れて行ってくれませんか?」 捕まった時、別々に引き離された。 まあ、当たり前のことだが。 その人は答えない。 代わりに前方を指差した。 「あ、骸さん!」 「骸様、ご無事で!」 その人と同じような風体をした者達に連れられて、千種と犬がいた。 「間違いないな?」 犬を連れてきた方が、尋ねる。 声からすると、おそらく男性。 どうやらその人たちは喋れないわけではないらしい。 ということは、あの人が答えてくれないのは、別の何らかの理由か。 仲間の問いかけにも、頷くことしかしていない。 あの人が頷いたのを確認して、彼らは手招きして、再び走り出した。 とりあえずそれについていく。 「いーんれすか、骸さん?あいつらについていって」 「まあ、脱出させてくれるようですし、今はお言葉に甘えることにしましょう」 「何も喋ってないですよ、あいつら……」 黙々と、彼らは瓦礫を避けながら、立ちふさがるものを切り捨てながら走っている。 おかげでこちらはすることがないほどだ。 「それでも、とりあえずは助けてもらったので」 何か企んでいるのは重々承知。 「少なくとも、この“復讐者”に侵入するなんて、まともな神経の持ち主ではないでしょうがね」 やはり、返事はなかった。 不自然に開いた大穴から外へ出て、何ヶ月ぶりかの外をひとしきりかみ締めたあと、 彼らが乗ってきたであろうヘリに乗り込んだ。 「任務、滞りなく終了。出立せよ」 「了解」 短い会話の後、ヘリは復讐者の牢獄を飛び去った。 「ひゃっほーう!すげー眺めら!」 犬が初めて乗るヘリに騒いでいる。 「犬、落ちますよ」 窓にひっつく犬に一応注意を促してから、改めてヘリの中を確認した。 自分たち三人と、迎えにきた三人、それから操縦士の計七人。 やろうと思えばやれるだろうが、ヘリという不安定な場所にいる以上、 地上までは大人しく従った方がいいだろう。 そう思って、座席に座りなおした。 「賢明だな」 ぽつりと、誰かが呟いた。 穏やかであるはずなのに、鳥肌が立った。 だからかもしれない。 その声は、忘れたくても忘れられない声であったというのに、気づけなかったのは。