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調べて、探して、でも何も見つからなくて、少しは休めと言われた通りに休んでいた時だった。

「邪魔するぜ、リボーン」

「何の用だ、コロネロ」

同じアルコバレーノの、奴が訪ねてきたのは。

ノックも何も無く、突然部屋へ入ってきて当然のごとく椅子に座る。

「その様子だと、やっぱり九代目の言う通り知らねーみたいだな、コラ」

「何のことだ」

ここはボンゴレの屋敷なのだから、最初に九代目に顔を出してきたのはまだ分かる。

だが、俺が知らないことだと?

「お前、ずっと書庫にこもってたんだってな?

たまには世界に目を向けた方がいいぜ、コラ!」

「……何が起きた」

コロネロの口ぶりからすると、世界規模で揺るがすような事件が起きたのか。

「マフィアランドが落ちた」

「!!」

「三日ほど前の話だ、コラ。

たった五人ほどの人間に襲撃されて、ものの二十分ほどで落ちた」

マフィアランドは、互いに不可侵条約を結んだ絶対領域。

それ故に、ある意味では一マフィアよりも厳重な守備がされていたはずだ。

それが、こうもいとも簡単に。

「九代目にその報告に来たんだがな、

こもっているお前にも話してやってくれって言われてな」

九代目なりの心遣いのつもりだろうか。

何の気休めにもならないが、少なくとも世界は何かの形で動いている。

それだけは確かだ。

もちろん、それを言いに来たコロネロに礼など言わない。

変わりに皮肉を返してやった。

「お前がいて、情けねーな。何のためのアルコバレーノだ」

「悪かったな、コラ!でも変な連中だったぜ。

今時ジェメーロ・ラマなんて使ってんの、初めて見たぜ」

「おい、コロネロ。今、何ていった?」

「あ?」

「何ていったか、つってんだ」

声が険しくなる。

コロネロは少しそれに顔をしかめたが、律儀に言い直してくれた。

「だから、戦った奴がジェメーロ・ラマていう武器使ってたんだつったんだ、コラ!

もう何十年も前に、使い手なんて滅んだって聞いてたんだけどな」

俺の足元には、そのジェメーロ・ラマに関する書物が散らばっている。

だから、そんなことは百も承知だ。

「そいつ、その武器使ってたやつは、どういう奴だった?」

「何でお前がそんなこと気にするんだ、コラ」

「任務だ」

どういう任務だよ、とコロネロが小さく呟いたのが聞こえたが、無視した。

“そいつ”を思い出そうとするコロネロの目は、どこか遠い。

「強かったぜ。むちゃくちゃな。

下手な弾は全部弾かれる、接近戦なんてもっての他だ、コラ。

おまけにやることなすこともむちゃくちゃだった」

何だそれは、と視線だけで促す。

「死にてーのか、と俺が叫びたくなるくらいには、命知らずな戦い方だったぜ、コラ」

一瞬、目の前が暗くなったような気がした。

「何百人の警備がいる中突っ込んできたり、

空にいる俺を攻撃するためだけに塔を壁のぼりして飛び降りたりな」

本当に、命が要らないかのような戦い方。

マフィアという組織を敵に回すだけでも、命知らずと称される世界だというのに。

最強の赤ん坊、アルコバレーノの一人、コロネロと相対しながら、そんな。

ぐるぐると思考する俺をよそに、コロネロは続けた。

「ってなわけで当分マフィアランドは閉園。

俺もこれから、青のアルコバレーノとして、責務を果たすぜ、コラ」

「マフィア巡りか?」

「ああ。マフィアランド壊滅でゴタゴタが色々起きるだろうからな。

そいつらの中を取り持たなきゃなんねえ。それが」

一度切って、コロネロは静かに笑った。

「マフィア同士の繋がりを守る、青のアルコバレーノの役目だ」

それだけいうと、邪魔したな、といってコロネロは去った。

少しして、椅子に座りなおして、天井を仰ぐ。

傾いた頭から避難するため、レオンが俺の肩に飛び乗る。

無機質で、何の変哲もないただ高価な天井。

それが、容赦のない現実を表しているように見える。

ジェメーロ・ラマ。

それはイタリア語での名前だ。

他にもいくつか呼び方があった気がするが、いちいち覚えちゃいない。

確実なのは、これの使い手が今は世界にたった一人だということ。

探っても調べても、大した情報は出てきやしない。

ここ数日こもって分かったことといえば、

“血の幼子”のかつての戦歴、(ゾッとした。この俺が)

その目撃情報、ジェメーロ・ラマに関すること、そんな程度だ。

そんな程度しか分からないほど、情報が残されていないのだ。

その姿を全く見せず、情報を与えず、淡々と任務をこなす人間。

相手が相手なら、ボンゴレのヴァリアー(つまりは暗殺部隊)辺りに推薦してたものを。

ジャコ、と銃を唸らせる。

分からないものをいくら考えていても仕方が無い。

やれることから始めるしかないのだ、結局は。

「行くぞ、レオン」

相棒に声をかけると、再び帽子の上に移動する。

俺に与えられた部屋で、ほとんど唯一の私物と言ってもいいほどの、それを見た。

今となっては懐かしい幻のような。

「行ってくる」

一言だけ、意味はもうないと分かっているけれど、それでも。

出来る限りの優しい声で、声を。

その姿形を目に焼き付けて、部屋を出た。

俺が見ていたものは写真だ。

ちょっとだけ古くなった、写真。

その裏にはこう書かれている。


“また、みんなで海に行こうな!”