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埃まみれの廃墟。

けれど、町からそう遠くもなく森に囲まれたここは、なかなかの隠れ家だ。

「骸さん、果物とってきました〜」

「骸様、見回り、終わりました」

外に出ていた二人が戻ってきた。

「ご苦労様です、千種、犬。では食べましょうか」

犬がとってきた果物を手に取る。

動物の勘か、犬がとってくるものはきちんと食用で、なかなか美味い。

おかげで飢えをしのげたこともそう少なくはない。

まあ、ダメならだめで、どこかからとって来るまでだが。

「あれから一ヶ月、追っ手は来ませんね」

復讐者からも、あの謎の組織からも。

ここ一ヶ月、恐ろしいくらいに静かだった。

「泳がせている可能性もあります。とにかく今は体力を回復することでしょう」

しばらくの牢生活、拙い食事、体力はかなり低下していた。

まずはそれを取り戻さねば、何かあった時に対処できない。

警戒はもちろん必要だが、休養も必要である。

それを自分は良く知っている。

二つ目の果物を手に取った。

「それへ、むくほさん、へんきにはったらほうするんれすか」

「犬、食べてから話しなさい」

果物を頬張ったままの犬を軽く叱る。

行儀の悪い。

しばらくもぐもぐと口を動かしていたが、やがてごくん、と飲み込んだ。

「それで、骸さん。元気になったらどうするんれすか」

……口に物が入ってなくても一緒か。

「そうですね……」

まず第一に、目的はマフィア界の混乱、そのための手段は要人の乗っ取り。

しかし、“彼”を狙うことはもうできない。

居場所は分からないし、何より適わない。

すると、次に狙うべきは何か。

巨大マフィア、中心ともいえるボンゴレを混乱させるのが一番だが、

ドンを狙うのも、労力の割りに合わない。

ボンゴレの幹部辺りの乗っ取りを狙い、序々に掻き乱すのが確実か。

だが、イタリアはボンゴレの本拠地、真っ向から乗り込むのは頭が悪い。

ならば、混乱に便乗すればいいのだ。

あるものは利用したほうがいい。

口の端を、僅かに持ち上げた。


「いいですか、決して深追いはしないこと。

足が付く可能性のあるものはたとえ些細なものでも残さないように」

「はい」

「分かったぴょん!」

千種と犬が頷く。

私達は情報収集のために、各々違う町へ散った。

あの組織のことを思いだす。

マフィア界では暗黙の不可侵条約が結ばれている復讐者の牢に、

真っ向から突撃してきた豪胆さ、追っ手を振り切る綿密な計画。

また、その作戦を成し得るだけの力も持ち合わせているから、

マフィアにとっては余計にたちが悪いだろう。

まさか復讐者の牢だけを襲って終わりというわけではあるまい。

彼らの目的は、少なくともマフィアと対峙することにあるだろう。

つまりは、それほど遠くない内、

またどこかしらのマフィア関連の場所に攻撃を仕掛けることが考えられる。

その騒ぎの一つに乗じれば、ボンゴレの幹部をのっとるのもスムーズに行きやすいだろう。

そのための情報収集だ。

何でもいい、彼らに繋がるものを探さねば。

もっとも、彼らについて知っていることと言えばその程度なので、

そうたやすくは行かないだろう。

……行かないと、思っていたのだが。


ある路地に入った時に、ぼそぼそと声がして、気配を消して身を潜めた。

相手の気配も感じない。

相当の手鍛のようだ。

「――が、先行して……いる。お前は……に――」

よく聞こえない。

もう少し近づく必要があるか。

「分かったな?お前は正面から奴らをひきつけろ。

ヴァリアーの奴らに目にものを見せてやれ」

返事はない。

おそらく頷いただけだ。

「決行は今夜零時。ぬかるなよ」

その声を終わりに、何も声がしなくなった。

最初から気配はないから確証はないが、おそらくいなくなったのだろう。

そして成された会話は自分が探していたものだ。

「ヴァリアーですか、これはまた大胆なところを選びますね」

ボンゴレ暗殺部隊ヴァリアー、これを狙うと言うことは、

つまり完全にボンゴレを敵に回すと言うことだ。

ヴァリアーが落ちれば、ボンゴレが色んな意味で混乱することは確実。

これに乗じない手はない。

「千種と犬を呼び戻して、作戦を立てますか」

辺りに完全に音がなくなってから、通りに戻る。

そこで、一度今いた路地を振り返った。


路地は深く暗く、何の光も届かない漆黒の闇に包まれていた。