\ 「俺も九代目のじいさんに頼まれて色々調べてるんだが…… 今のとこ、これと言った情報はない。悪いな、リボーン」 「いや、ダメでもともとだ」 ボンゴレの同盟ファミリーの元を回って、情報を探してみたが、何も出てこなかった。 それを謝ったディーノにつげ、何かわかったら教えてくれと残して、屋敷を出る。 まずは見つけないことには始まらない。 そう思って出てみたはいいが、手がかりは何もなかった。 動きは大きいのに、この情報の少なさは何か。 考えられるのは、よほど凝った情報操作をしているか、情報を持った人間を消しているか。 どちらにしろ、手ごわい相手であるのには違いない。 こちらも、それなりの手を使わなくてはならないだろうか。 「で、僕のところに来たわけ?」 「情報の無い相手を探すには、お前の能力が最も適してるからな」 暗殺部隊所属の、マーモンこと紫のアルコバレーノのバイパー。 行方不明とされていたが、 ついこの前、名前を変えてヴァリアーに潜り込んでいることが分かった。 アルコバレーノ随一のサイキック能力は、索敵能力にも長けている。 「同胞だからといって、まけたりはしないよ」 「分かってる、お前が現金好きなのもな」 そう言って、あらかじめ用意してきたスーツケースを投げ渡す。 中身を丹念に確認したバイパーは、意外そうに頷いた。 「まさか君が真面目に僕に依頼してくるなんてね。 まあ、お金を貰って依頼を受けた以上、仕事はちゃんとやるよ」 「当たり前だ」 金で動くこいつは、ある意味では扱いやすい。 「捜索対象は、行方不明の十代目候補で間違いないね?」 「ああ」 じゃ、さっそく、とバイパーは背負った紙を一枚取り出した。 ずび、と粘写の音がして、バイパーが顔を上げる。 しかし、それを見たまま、バイパーは何も言わずに固まった。 「どうした」 「……ねえ、これ、どういうことだと思う?」 そう言ってバイパーは、粘写された紙を俺に見せる。 鼻水によって形成された地図。 対象がいる場所を示した記号、その対象が今現在いる場所の概略地図。 なぜか、この地図に見覚えがある気がした。 「分からない?」 急かされて、地図を良く見て、あ、と声を上げた。 「……おい、今ここには誰がいる?」 「僕と、ボス、ベルとレヴィ、それから何十人か構成員が残ってる。 ……“何か”来るとしたら、ちょっと心もとない人数だね」 その地図は、ここ、つまりはヴァリアーの屋敷を示していた。 「印は、正面から二百メートル地点。 突入してこようと思えば、すぐにでも来れる距離…… 参謀のスクアーロがいないのが痛いね。 ボスに言った所でまともに指示なんてくれないだろうし」 残ってるのは頭なしのレヴィと、自分の愉しみを優先しがちなベルだし、 とマーモンはため息をついた。 「……それが本当にあいつなら、俺が行く」 「らしくないね、黄のアルコバレーノ、リボーンたるものが」 分かっている。 俺が俺らしくないなんてこと、自分が一番よく。 だが、それでも行かなければならないと、そう思っただけだ。 バイパーがもう一粘写した。 「他にも何人か……何人かしかいないね。舐めてるのか」 「侮んな。お前だって知ってるだろう。 つい先日、五人の賊にマフィアランドが落ちてんだ」 本来なら、ヴァリアーに攻めてくるだけで命知らずなどとレッテルを貼られる。 だが奴らには実績がある。 油断は、できない。 「……そういうことか。まあいいや。 それじゃ、正面は君に任せるよ。僕は通達に行くから」 少し間が空いた後、バイパーは一人で納得して部屋を出て行った。 俺も、行かなくては。 しばらく正面玄関で待ち伏せて、そろそろ日付が変わるという頃、横から爆音が響いた。 正面じゃない、側面だ。 数人での分散して多面奇襲。 よほど個人の腕がなければ、とてもやろうとも思えない作戦だ。 微かな音が聞こえて、すぐさま銃を抜き、その方向に一発撃つ。 その後すぐに、地面に弾が打ち込まれた音がした。 そこには、白い仮面をつけ、黒いコートで体を覆った人間がいた。 顔も髪も目も分からない。 気配も持っている武器(ジェメーロ・ラマだ!)も、立ち振る舞いも違う。 それでも、あいつだと一発で分かった。 長年培った勘が、確かにあれはあいつだと告げている。 「ツナ、だな」 答えない。 「もうお前だってことは分かってんだ。素直に白状しやがれ」 銃の焦点を合わせる。 それでも、身動き一つ、かばう動きさえ見せなかった。 「答えろ、沢田綱吉!」 ざわ、と寒気が全身を襲う。 反射で、すぐさま横に飛び、いたところに一発打ち込んだ。 ガキン、と弾を跳ね返す音がする。 さっきまで俺がいた場所に、あれが、ジェメーロ・ラマが食い込んでいる。 避けなければ、確実の俺の頭から貫いていた。 躊躇いもなく、一足飛びで間合いを詰めて来た。 (しかも速過ぎると言っていい程の動きだった) 頭では信じたくない。 だが、作られた土の陥没は、確かに現実のものだ。 「レオン!」 レオンが俺の声に応えて形を変える。 刃の形になったレオンで、後ろから襲ってきた凶器を受け止めた。 ああ、くそ。 こんなにも近いのに、目の前にいるのに、手が届かない。 「ツナ、何のためにお前はこんなことをしている!お前の目的は何だ!」 声しか届かないなんて、なんてもどかしい。 ぎりぎりとせめぎ合う手が震える。 「八年前に何があった!」 メレデタッテメンテ・バンビーノが現れた時期。 七年前に家光が家を訪れていたはずなのに、そこでは異常は無かった。 繋がらない欠片たち。 それを全て繋ぐのは、目の前にいる教え子なのだ。 小さく息が吐かれた気がする。 強い力を感じて、弾かれる前に自分から引いた。 数メートル離れたところに着地した。 「……何もかも、とうに遅すぎるんだよ、リボーン」 何の感情も込められていない声音の声。 それは記憶と明らかな差があったけれど、確かにあいつの、ツナの声だった。 「ツナ!」 「沢田綱吉はもう死んだ。俺は――」 ドン、と連続で爆音が響いた。 側面から入り込んだ奴を、抑えきれなかったのか? 「俺の役割は終わりだ。じゃあな、黄のアルコバレーノ」 ツナは踵を返して走り出す。 「待て!ツナ!」 「俺の名前は四十四。それだけだ」 もう見えない。 見えるものは、黒煙を上げる、ヴァリアーの屋敷と、深い暗闇。 残されたのは、俺と、無情な戦いの跡。 冷たい声だけが、頭の中を木霊していた。