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その日は、ずっと屋敷中落ち着きが無かった。

みな、分かっていたのかもしれない。

数日前に情報部が入手してきた、襲撃情報。

それが、おそらく今日であること。

屋敷に漂う空気は、ずっと緊迫したものだった。

臨戦態勢は既に整えている。

彼らがいつ来ても、迎え撃てるくらいには。

右腕たる赤ん坊も、ずっと傍で静かにたたずんでいた。

「リボーン」

話しかけてみる。

「何だ」

普通に返してきた。

とりあえず、表面上は落ち着き払っている。

あくまで、表面上は、だが。

「分かっているだろう?」

「さてな」

含みを多分に込めた私の質問に、リボーンはおどけるような反応を返す。

やはり、分かっているのだ。

分かっているから、こんな反応をするのだ。

大分時間が空いた後、リボーンはぽつりと呟いた。

「俺は戦う。今度こそ……聞き出してやる」

その目には確固たる決意が宿っている。

頼もしく見える反面、恐ろしくも見えた。

もし、ふたを開けたそこに詰まっていたのが望まないものであったなら、

お前はどうするのだろうか?

だが、問いはしない。

きっと本人も分かっているだろうから。

私が彼にしてやれることも、もうない。

心の、感情の整理は、本人にしか行えないのだから。

私に出来ることは。

「九代目!屋敷に侵入者が!数はそこまで多くありませんが、例の、奴らかと……!」

多少最後の声が濁って行く。

気合を入れ、声を張り上げた。

「臨戦態勢!ボンゴレの名にかけて、全力で相手を迎え撃て!」

私に、出来ることは。

「はっ!」

役目を、果たすことだけだ。


絶えず戦況の報告が入ってくる。

やはり、一筋縄ではいかないようだ。

相当、苦戦している。

確かに今までかなり苦労させられた相手なだけのことはある。

不意打ちということもあったが、それだけで一方的にやられるような世界ではない。

彼らは確かに実力を備えている。

だが、こちらも今回は心構えが違う。

攻められて守りに入るのではなく、こちらも攻める構えだ。

マフィアの、ボンゴレの誇りにかけて、

この世界は決して甘くは無いことを教え込んでやろう。

それはひいては、混乱しきったマフィア界の秩序を取り戻すためでもある。

互いに負けられない。

そういう戦いのとき、勝負を決するのは、意志だ。

勝ちたい、生きたい、守りたい。

そういう、心からの思いは、時に実力以上の力を発揮する。

そして、私の自慢のファミリーは、

確かにそういった強い意志を持っていると、私は信じている。


大分時間が経った。

戦況を聞く限り、力はそれなりに拮抗しているが、ややこちらが押している。

このまま行けば、勝つ、もしくは少なくとも撃退できる。

いい流れだと思った。

だが、一つ、気になる報告だけがあった。

今まで全ての任務で優秀な実績を残した、組織の要とやらが、いない。

発見されていない。

見たという報告が入っていないのだ。

今、屋敷は相当な数の構成員で占められている。

これはおかしな話だろう。

どこをどう通ったとしても、見つからないはずは無い。

そこから結論を出すなら、いない、もしくは巧妙に隠れていると判断するのが常だ。

リボーンもそれを聞いている。

だが、リボーンは微塵も動揺しない。

ただ、じっと静かに待っているだけだ。

だから、やはりおそらくいるのだろう。

どんな手を使っているのかは分からない。

けれどあの子はいる。

ならば、私もここで待たなければならない。

あの子が現れるのを、リボーンと同じように待たなければならない。

心を落ち着かせながら、冷静に指示を出していた。


彼らの突入から一時間ほど経ったころだろうか。

まだ戦いは続いている。

それでも、着実に、少しずつこちらが勝り始めている。

そろそろ交代をさせようかと思った時。

ごどんと、ドアが勢いよく割られた。

同時に、部屋の中に影が現れる。

真っ黒なコート、顔を全て多い尽くす仮面。

まさか。

隣のリボーンが、にやりと口を歪ませた。

「ようやく来やがったな、ツナ」


彼は、全身を血に塗れさせながら、そこに立っていた。