U] 血が、舞う。 赤い赤い、血が。 炎のように赤い血をまとって、目の前の人間は倒れた。 ツナが、倒れた。 ばたんと大きな音がして、ようやくそれに気付いた。 急いで駆け寄る。 近寄っただけで血の臭いが鼻に付く。 銃弾は、ツナの肺を貫いていた。 このままじゃ、死ぬ。 「何であいつをかばった!?お前は……っ!」 言いかけて、やめた。 こんな状態で喋らせたら、それこそまずい。 九代目が視界の端であの男を捕らえる。 動きを押さえ、急いで携帯でボンゴレの医療班へと連絡した。 仮面を取る。 やはりそこには、見慣れた教え子の顔があった。 その顔は出血のせいか、青白い。 だというのに、ツナは小さな笑みを、その顔に浮かべていた。 「……いいんだよ、これで……」 「喋んじゃねー。助かるもんも助からねーぞ」 応急処置で血を止める。 だが、やはり肺を塞がない限り、命はない。 何も出来ない自分が歯がゆい。 「リボーン、どうせ助からない……だから」 「喋んじゃねーっつってんだろ!」 思わず、叫んでしまった。 死なせてたまるか、死なせるか。 その素顔をようやく見れたのが、死の間際なんてごめんだ。 早く、早く。 一刻も早く医療班が来ることを、祈ることしか出来ない。 もう喋らないように口を塞ぐ。 ツナは、それでも何とか喋ろうと、多少もがいた。 手足を押さえて、それも防いだ。 「ふ、はは……」 不意に耳障りな笑い声が聞こえて、視線をそちらに向けた。 九代目に押さえられているあの男が、下卑じみた声を上げている。 「まさか最後の最後でしくじるとはな……だがただでは、死なぬ」 自嘲するような笑いの後、男は更に嬉しそうに、そして不気味に笑った。 その挙動に一瞬気がそれた。 その隙をついたツナが、押さえを振り切って叫んだ。 「なぜですか!俺は約束を守った!」 「っ馬鹿、喋んな!」 慌てて押さえ込もうとする。 だが、ツナが動いたことで止血していた場所がまた血を出し始めた。 まずい。 何とか血を止めないとと再び止血をする。 その間に、男はまた喋った。 「我らの悲願を果たせなかった!その時点でお前は反逆者だ!」 ツナの顔がさらに青ざめていく。 これは、血のせいだけじゃない。 「そんな、そんな……!それじゃ、俺は今まで、何のために……っ!」 止血は何とかできた。 だが、話している内容が全く理解できない。 何だ? 何の話だ? まさか、盾にされていた“何か”が失われようとしている……? 九代目もそれに思い至ったのか、男の挙動を押さえようとした直前。 「呪え!お前を取り巻く全てを!」 それだけ叫んで、男は舌を噛み切って死んでいた。 「何を……!?」 訳が分からない。 自害? 何のために? だが、ツナは真っ青で何かを呟いている。 何を……。 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……っ!!」 耳に届いたのは、悲痛な叫び。 全力での拒絶。 「うしないたくない……っ」 次の瞬間、ごほごほとツナが血を吐いた。 しまった。 「おい、もう喋るな!」 ツナの息が荒い。 「九代目、医療班はまだこねーのか!」 「もう少し……!」 死んだことでとりあえず男から離れた九代目は、 ファミリーに指示を出しながら、医療班を急かしていた。 忘れかけていた焦燥がよみがえってくる。 間に合ってくれと祈ることしかできない。 血を吐く音が消えて、ツナがゆっくりと目を開く。 その瞳は、深く、暗く、焦点が合っていない。 何か、違和感があった気がした。 だが、とにかく喋らせてはいけないと思って、口を塞ごうとして。 その何も無い目が、俺を映した瞬間に。 「……あな……たは……だ……れ……?」 そしてツナは死んだ。