U 「お帰りなさい、ベル様!」 駆け寄ったシエナは、満面の笑みでベルを迎えた。 「ん。じじいはいる?」 「九代目ならいらっしゃるけど……今、来客中よ」 少し間を空けて、話し込んでるであろう部屋を、視線で示す。 「誰?」 「十代目様とリボーン様だよ」 その返事にベルはあからさまに嫌な顔をする。 「げ。アルコバレーノが来てんの?任務報告に行かなきゃなんねーのに」 「リボーン様が苦手なの?」 きょとんとして、シエナが尋ねる。 ベルはぶんぶんと首を振って否定した。 「苦手なわけじゃねーよっただ、面倒なだけ」 シエナはよくわからないと、首をかしげた。 別に分からなくていいと言ってから、ベルは手を頭の後ろに回す。 「んー、じゃ、あいつ帰るまで時間潰すか。なんか菓子ある?」 「あ、あるよ!」 「食べる」 それにシエナは嬉しそうな顔をして、ベルと一緒に屋敷の中に戻っていった。 一方、綱吉たちは、窓からその光景を見ていた。 「うっそ、信じられない……ベルが、女の子と……しかもあの人、さっきのメイドさんだよね?」 「だろうな。九代目が迎えに行ってやれって言ったんだからな」 そう言って振り向くと、やはり九代目は笑顔を浮かべている。 「驚いただろう?」 「あのメイド、何者だ?」 ただもんじゃねえだろ、と視線に込めて聞く。 それはそれなりに威圧があったのだが、やはり九代目には通用しない。 笑顔を崩さないまま、リボーンの問いに答えた。 「今の彼女は、ボンゴレのメイドだよ。ただし、ベルフェゴールの幼馴染のね」 「幼馴染!?あの、ベルの!?」 綱吉は、ベルの性格と行動を思い出す。 殺し屋殺しが好きで、殺し合いが好きで、人を殺すのが好きで。 且つ、怪我した時には人格が豹変して、さらにその猟奇さが増すという。 それが、ヴァリアーのベルフェゴールだったはずだ。 「よく生きてたな」 リボーンのセリフは物騒だが、綱吉も同じ心境だった。 綱吉は、ベルは小さいころに家族を殺したと聞いていた。 そんな彼が、幼馴染を生かしているなんて。 「ここに来るまでに紆余曲折あったんだがね。今はこうしてメイドとして落ち着いている。 ベルも、時々任務報告や暇つぶしに来ては、彼女と話しているよ」 相当壮絶な紆余曲折があったんではないだろうか、と綱吉は想像した。 「まあとにかく、用件は終了だ。屋敷の中に部屋を用意してあるから、夕食まで好きに過ごすといい。 何かあれば誰か呼んでくれ」 「分かった。行くぞ、ツナ」 「わわ、ちょっと待てよ、リボーン!」 立ち上がってさっさと歩き出すリボーンを、綱吉は慌てて追いかけた。 「それでさー、その時サメが」 ベルの声を、トントン、という音が遮った。 それに不快を示したベルが、ナイフを構える。 「ベル様、ナイフ投げちゃだめだよ。ドアに穴開いちゃう。はーい」 ベルに注意を促してから、シエナはノックの主に応えるべく、ドアへ向かう。 「シエナ、いるかい?」 聞こえた声は男のもので、ベルはさらに不快を示した。 「あら、ケイン。どうしたの?」 「今、時間があるなら一緒にお茶でも、と思って……」 そう言って、手に持っていた茶菓子を見せる。 シエナは困った顔をして。 「ごめんなさい。今、お客様が来てるの。また今度誘ってくれる?」 「客って、誰…」 そう言って、ケインは部屋の中へと視線を向ける。 そして、きっかり二秒後に固まった。 「ヴァ、ヴァリアーの……っ!」 ケインはがたがた震えて、指差しそうになった手を抑えた。 「ベル様だよ」 「失礼しましたーっ!」 だーっと、わき目も振り返らずに走っていった。 「う、うん、またね」 それを呆然と見送ってから、シエナは手を振って、扉を閉める。 部屋に戻ると、それは不機嫌なベルがいた。 「ベル様、どうしたの?」 「シエナ、あいつ誰」 不機嫌な口調のままで、口を尖らせるように尋ねた。 「この屋敷の使用人で、ケインっていうの。何かと親切にしてくれる、優しい人よ」 「よく話すのか」 「話すって言うか、話しかけられるかな。普段はメイド仲間と話してるんだけど」 メイド仲間ってことは、そっちは女か、とベルは考える。 ならば標的は。 「あいつ殺していい?」 「だ、ダメだよ、敵じゃないんだから!」 「敵だよ」 シエナに話しかける男はみんな敵だ、とベルの中では方程式が成り立っている。 「ただのボンゴレの使用人だよ?ベル様が気にかける必要、ないよ」 何とか宥めようと、シエナがゆっくり説得する。 しばらくその説得を不本意そうに聞いていたが、やがて頷いた。 「分かったよ」 「そう、良かった」 シエナが安心するように笑ったのを見てから、ベルは一つ菓子をつまむ。 「んじゃー、話の続きな。その時、サメがさ」 「うん」 自分の話に楽しそうに相槌を打つシエナを見ながら、ベルは思う。 やっぱ町で見かけたら、事故に見せかけて殺してやろうかな、と。 バレたらまずいかもしれないから、原型残さないくらい潰して。