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静かな中に響いた音に、当然観客の意識はそちらへ向く。

綱吉もそちらへ向きかけたが、ふと、感覚の端に何かが引っかかった。

それをとうに嫌と言うほど知っている綱吉は、すぐさま後ろにいた九代目と共に、しゃがみこんだ。

途端、ガン、という音が前と後ろから同時に聞こえた。

前からした音は多分銃声だ、と思った綱吉は、すぐさま戦闘態勢に入る。

だが、音の原因はすぐに何人かの者たちに押さえつけられていた。

「ツナヨシ、大丈夫か」

「あ、はい。九代目もご無事そうで何よりです」

息をついた綱吉は、後ろを振り返って九代目と目を合わせる。

答えてから、視線を上に持ち上げていった。

そこには、さっきまで綱吉がいた辺り、の後ろの壁にめり込んだ銃弾。

「うわ、やっぱ銃か」

「よく避けたな、ツナ。超直感か」

いつの間にか綱吉の横に立っていたリボーンが、満足そうに頷く。

「まあね。何となく感覚に引っかかって」

「間に合わなかったら私が引っ張ろうと思ったのだが、いらぬ心配だったようだ」

九代目も満足そうな笑みを浮かべる。

内心ちょっと複雑だったツナは、音の発信源に顔を戻した。

「えーと……どなた様?俺、何か恨まれるようなことやった?」

その言葉に、リボーンがぱしんとハリセン(レオン変形)で綱吉の頭を叩いた。

「バカ。十代目候補ってだけで、狙われるには十分だろが」

「ああそうか、って俺、危ないとこだったの!?」

今さらながらに気づいた綱吉が、やはり複雑な気持ちで超直感に感謝した。

(そもそもこの血が無ければマフィアになんてならなかったんだけどな……)

素直に感謝しきれない綱吉は、苦笑することで心を落ち着けた。

「警備は厳重だったはずだが……連れて行け!」

九代目の命に、音の発信源――身なりのいい男だった――は拘束されたまま引きずられていった。

「すまないな、ツナヨシ」

「え、いえ!九代目が気にすることではありませんよ!」

慌てる綱吉に、リボーンが小さく帽子のつばを下げる。

「だが、ツナを狙っている奴がいることは否めねーな」

「ああ……」

深刻そうに頷いた九代目に、綱吉はなぜだか嫌な予感がした。


咄嗟に銃弾を避けたのが良かったのか、

それからの周りの綱吉への視線はそれ程痛いものでもなかった。

結果オーライかな、とようやく終わったパーティを抜けて、部屋へ戻った綱吉はそう考える。

戦闘もせずに済んだし、とポケットに入っていた手袋を取り出した。

それから身軽な格好に着替えて、

もう一回ディーノさんに挨拶しておこうと部屋を出ようとしたのだが。

「どこ行くんだダメツナ」

リボーンの十手(やはりレオン変化)を突きつけられて、固まった。

「で、ディーノさんに挨拶しようと思って」

「さっき命を狙われた奴がのこのこ出歩くんじゃねえ」

レオンは形を戻し、リボーンの帽子に収まる。

そしてリボーンは、くるりと踵を返した。

「九代目が呼んでる。行くぞ」

「え、今出歩くなって」

言ったばかりだろ、という続く前に、リボーンに遮られた。

「何か言ったか」

「何でもありません」

条件反射って怖い。

とりあえず綱吉が思ったのはそれだった。


「ああ、ツナヨシ、先ほどは本当に済まなかった」

「あ、いえ、だからいいと……」

「いや、未遂とは言え十代目候補暗殺が行われようとしていたのだ。

これは見逃せない由々しき事態だ」

そんな大げさな、と綱吉は思ったが、足元から来る視線に口を噤む。

リボーンが続けろ、と言ったのに頷き、九代目は大きく頷いた。

「それで、ツナヨシに護衛をつけることにした。明日には帰るだろう?

今からこっちに来てもらうよりは日本に行った方が早いと思い、先に向かうように言っておいた。

もちろん、リボーン、それまでもその後もツナヨシから目を離さないでくれ」

「誰だ?」

了承も何も言わず、その護衛は、と言外に含めて尋ねる。

「行けば分かる」

九代目はなぜか楽しそうだ。

(てか、俺置いてけぼり?)

当事者なのに、とちょっとだけ綱吉は悲しくなった。

まあ、相手が巨大マフィアのドン・ボンゴレ九代目と、

リボーン(これだけで納得で来ちゃうんだから、ホント慣れと習慣とはつくづく怖い)

なのだから仕方が無いのだが。

それより、四六時中リボーンに見られている方がつらいかもしれない。

観察という名目で何を仕掛けてくるか分からないのだ。

少しげんなりした綱吉を差し置いて、二人の会話は進められていた。

「じゃあ、明日は自家用飛行機に乗せて貰えるんだな」

「ああ、その方が安心だろう。操縦士も厳重に選び、離陸にも細心の注意を払う。」

(しかもどんどん話が大きくなってる!)

どこの大統領だ、ともう何度目になるか分からない心中ツッコミを、綱吉は繰り返した。


落ち着かない警備の中一夜を過ごし、綱吉は宣言されたとおり、

自家用飛行機に乗り込もうとしていた。

「じゃーな、ツナ!また日本に遊びに行くからな!」

残っていてくれたらしいディーノに、綱吉は笑顔で挨拶を返した。

「落ち着いたら、また来なさい」

九代目の笑顔の見送りに、少々苦笑を交えて答える。

辺りには厳重の名のとおり、いかにもマフィアっぽい人がずらり。

むしろ目立つんじゃ、という呟きは、自家用機の起動音にかき消された。

そういえば、見送りの中に、この前のメイドさん……

シエナさんはいなかったと、綱吉は光景を思い出して思う。

ただのメイドだから当たり前なのかもしれないけど、

いい人だったからちょっと悲しい、と綱吉は窓から外に目を向けた。


本日晴天、空の旅は順調。